コラム

アメリカで台頭する極左アンティファとは何か──増幅し合う極右と極左

2018年08月22日(水)17時00分

こうした急進派左翼の思想とスタイルが人種差別主義の広がるアメリカに渡り、「ブラック・ライブズ・マター」などの影響をも受けながら確立されたのが、現在のアンティファとみられる。黒いTシャツをきて、ゴーグル、マスク、ヘルメットなどで顔を隠すのがアンティファの基本スタイルで、男性の場合、極右にスキンヘッドが目立つのと対照的に長髪も珍しくないが、これらはヨーロッパの急進的左翼にも共通する。

アンティファの主な標的は人種差別的、性差別的な言動の目立つトランプ政権で、トランプ氏の就任式があった2017年1月20日には、黒ずくめの活動家らがホワイトハウス近くで警察車両や停車中のリムジンに火をつけたり、周辺のマクドナルド店舗の窓ガラスを割ったりして、217人以上が逮捕された。

「国内のテロリスト」認定

アンティファの急激な台頭は、トランプ政権の警戒を呼んでいる。

アンティファの一般的な認知は、シャーロッツビルでの衝突をきっかけに高まった。シャーロッツビルでの衝突の3人の死者のうち、2人は抗議デモをヘリで監視していた州兵だったが、残る1人は白人至上主義者が暴走させた自動車にひかれた女性だった。そのため、大手メディアの多くはアンティファの暴力を批判しながらも、白人至上主義者を主に批判した。

これに対して、トランプ大統領は衝突の原因が双方にあると力説。これを受けて、ホワイトハウスはウェブサイト上で「アンティファをテロ組織に認定するべき」という署名募目を開始。30万人以上の署名が集まった。

しかし、その後9月1日、アメリカの政治専門ニュースメディア、ポリティコは、国土安全保障省とFBIはオバマ政権時代の2016年からアンティファを白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK)などと同じく「国内のテロリスト」とみなしていたと報道した。

もしこれが事実なら、シャーロッツビルでの衝突の後、トランプ政権がわざわざ署名活動を行ったことは、アンティファ取り締まりを正当化するとともに、シャーロッツビルでの衝突の責任を双方に求めたことで不興を買った右派の歓心を買うためだったとみてよい。

極右と極左の相互作用

一方、もともとトランプ政権と対立してきた多くの大手メディアには、シャーロッツビルの後もアンティファを擁護する傾向が目立つ。

先述のように、シャーロッツビルでの衝突から一周年にあたる8月12日、ワシントンではアンティファの圧力の前に白人至上主義者がデモを中止せざるを得なくなったが、これに関して同日付けのニューヨークタイムズは「多くのワシントン住民は事態がより悪い方向に向かわずに済み、さらに悪い連中(bad guys)が効果的に追い払われたことに安心した」と述べ、「アンティファが意見の異なる者の言論を暴力で封じるのをみたくない」と白人至上主義者のデモ隊を説得した住民の声を紹介するなど、暴力を容認しないまでも、アンティファによってデモが押さえ込まれた結果を支持した。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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