コラム

危険度を増す「米中ロ」の勢力圏争い──21世紀版グレートゲームの構図

2018年03月22日(木)17時00分

共に独裁色を強めるロシアのプーチン大統領(左)と中国の習近平国家主席 Mikhail Klimentyev/Kremlin/REUTERS

<トランプ、習近平、プーチン──3人とも外国への不信感を隠さず、外部からの批判は意に介さず、敵を排除して権力を集中させることを厭わない。21世紀のこの時期にこの3人が大国のリーダーとして顔をそろえた歴史的な意味は何か>

2018年は米中ロで権力者がそれまで以上に権力を集中させる転機になっています。中国では3月に習近平体制の延長を念頭に国家主席の任期が撤廃され、同月ロシアでは大統領選挙でプーチン氏が圧勝。米国では「穏健派」ティラーソン国務長官が解任され、トランプ大統領が異論を認めない傾向をさらに強めています。

強引なまでのリーダーシップのもと、米国は自ら作り上げた自由貿易体制から撤退し始めるなど、これまで以上に一国主義的な姿勢を強め、中ロは時に歩調を合わせながらも、基本的にはそれぞれ米国への挑戦を強めています。これら三大国は勢力圏の確立にしのぎを削っており、その様は19~20世紀初頭にかけて英ロが覇権を争った「グレートゲーム」を想い起こさせます。ただし、21世紀の米中ロ版グレートゲームは、オリジナル版と比べてその規模においてはるかに大きく、より複雑で、しかも決着がつきにくいものといえます。

グレートゲームの三要素

オリジナル版のグレートゲームは、帝国主義のもと、中央アジアをめぐって英国とロシア帝国が対立した様を指します。この争いはその後、オスマン帝国の支配するバルカン半島や極東にまで波及しました。

一方、現在のグレートゲームは、米中ロの三カ国が世界全体での勢力圏を争うものです。基本的な条件の違いはあるものの、二つのグレートゲームは、経済的利益を最大化しようとする大国同士のレースで、これが他の地域にまで影響を及ぼす点で同じです。

二つのグレートゲームに共通する要素として、貿易、ナショナリズム、戦争があげられます。

このうち、貿易はグレートゲームの原動力とも呼べるものです。軍拡や派手な外交対決に目を奪われがちですが、冷戦期と異なり米中ロはイデオロギー的な優位の確立よりむしろ経済圏の確保を主な目的にしています。

原動力としての貿易

オリジナル版の時代、イギリスの最も重要な植民地はインドでした。一方、ロシアは18世紀以降、一年中利用できる港を求めて南下。世界のほとんどが分割され、植民地候補となる土地が残り少なくなるなか、イギリスのインド経営とロシアの南下政策はインドの北方にあたる中央アジアで衝突したのです。

現代では植民地支配は禁じられ、自由貿易がスタンダードになっています。しかし、2008年のリーマンショックの後、手堅い利益を求める気運の高まりとともに、米中ロは経済圏の拡張より確保に転換。例えば米国の場合、トランプ政権が鉄鋼・アルミ関税引き上げを決定しながらも友好国をその対象から免除することを匂わせることは、いわば政治的に近い国との経済関係を優先させ、「関税免除」を盾にそれらの国に対する米国の影響力を強めようとするものです。

これに対して、習近平体制の自由貿易協定(FTA)に基づく「一帯一路」構想は、むしろ自由な取引を通じて沿線の各国を中国経済の引力圏に囲い込み、これをもって中国の政治的影響力に転化させようとするものです。両者の手法は異なるものの、自国を中心とする貿易網を確たるものにしようとする点で同じです。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story