コラム

岸田政権「円高容認」の過ち...日本経済の成長率を高められる次期首相は高市氏だ

2024年09月18日(水)16時55分
自民党総裁選 高市早苗

自民党総裁選の有力候補となっている高市早苗経済安保相 Takashi Aoyama/Pool via REUTERS

<今の問題は、円高進行のスピードが速すぎること。「円安は害悪」との風説に岸田政権は過剰反応し、8月以降、日本株市場は停滞してしまった。誰が次期首相に望ましいか、その経済に対する理解度合いを見れば明白だ>

6月14日の当コラムでは、9月にFRB(米連邦準備理事会)が利下げを開始すると筆者は予想していたため、一部論者が懸念していた円安ドル高は早晩転換するとの見方を示した。

既に、9月18日夜のFOMC(連邦公開市場委員会)における4年半ぶりの利下げ開始は、パウエル議長らによって事実上予告されており、利下げ幅が0.25%か0.50%のいずれになるかが焦点になっている。6月に1ドル150円台後半推移していたドル円が、7月から円高に転じたのは筆者の想定に沿った値動きである。

7月まで散見された、「1ドル160円台を超えて円安が続く」といった自称専門家などによる予想は、メディア受けは良いが、多くは根拠が薄弱だった。ドル円は通貨の相対価格なのだから、やはり日米の金融政策の方向性でその趨勢が決まる、ということだろう。

問題は、円高進行のスピードが速すぎることである。

7月初旬には1ドル160円付近だったドル円は、通貨当局による大規模円買い介入、同月末の日本銀行の利上げを経て、9月18日時点で1ドル140円付近まで円高となり2024年初と同水準に戻った。1ドル160円台の大幅な円安はかなりの追い風であり、同時に「嬉しい誤算」(7月9日の当コラム参照)だったので、必然的に長く続かなかったとは言える。

1ドル150円台まで円安が進んだ方が日本経済にとって望ましい

足元の1ドル140円付近のドル円レートは、歴史的にみれば依然円安と位置付けられる。ただ、日本経済の成長率は2023年半ばから停滞が続き、デフレからの完全脱却の途上にあるのだから、再び1ドル150円台まで円安が進んだ方が日本経済にとって望ましい。

実際に、ドル円が年初と同水準に戻ったため、7月まで先進各国で最もパフォーマンスが高かった日本株市場は、8月初旬に急落して、トランプ・ハリス候補で接戦となっている大統領選挙が迫る中で、最高値圏で推移している米国株市場に対して大きく出遅れている。

「円安は日本経済にとって害悪」との多くの報道は、メディアによる一種の風説に過ぎないが、弱体化していた岸田政権がそうした世論に過剰に反応して、円高に誘導する通貨当局の対応を容認したということになる。7月末に日本銀行が利上げに踏み出した判断にも、岸田政権がレームダック化したことが影響していただろう。

その意味で、8月初旬の日本株の急落は、政策当局者による人災であると筆者は位置付けているが、多くの金融市場関係者が最近の経済政策運営に対する不信感を抱いているが故に、8月以降、日本株市場は停滞しているのである。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米F5へのハッカー侵入、中国政府関与の疑い=ブルー

ビジネス

午前のドルは一時150円半ばまで下落、1週間ぶり安

ワールド

途上国向け温暖化対策資金の調達案公表、COP30控

ビジネス

エプスタイン事件巡り米大手2行を提訴、女性が損害賠
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 2
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 3
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇跡の成長をもたらしたフレキシキュリティーとは
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 6
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    【クイズ】サッカー男子日本代表...FIFAランキングの…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 7
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 8
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 9
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story