コラム

トランプ再選で円高は進むか?

2024年07月24日(水)16時05分
ドナルド・トランプ

トランプ再選で円高が進む?  REUTERS/Tom Brenner

<トランプ氏の「対ドルでの円安や人民元安がはなはだしい」との発言が影響してか、トランプ氏再選となれば、ドル安円高が進むとの見方が散見される。ドル円の方向性を左右するものは何なのか......>

7月初旬にドル円は1ドル160円台まで円安が進んだ後、7月11日に公表された米国のCPIが予想を下回り、同日から日本の通貨当局により5兆円規模の円買い介入が行われた(日銀の統計から試算可能)。その結果、円高ドル安に動き、17日には一時155円台まで円高が進むなど、22日時点で157円付近で推移している。

5月16日の当コラムでは、FRBが利下げに踏み出す環境が整う夏場までには円高に転じるとの見方を示したが、最近のドル円の値動きは筆者の想定どおりの展開である。


 

今回の円買い介入は政策ミスと位置付けられる

1ドル160円台は歴史的にみて大幅な円安と位置付けられるが、需給ギャップが依然マイナスである日本経済にとって円安がプラスに作用する効果が大きく、「大きな追い風」になっていると筆者は繰り返し述べてきた。FRBの政策転換が近づき、大きな追い風が収束しつつあると認識すべきだろう。

前述のとおり、年初から約14 %ほど円安が進んだ時点で、日本の通貨当局は円買い介入に踏み出した。今回の対応は、かなり急ピッチに進んだ円安への対応だった2022年時の為替介入とは異なり、政策ミスと位置付けられると筆者は考えている。

日本経済は23年半ば以降ゼロ近傍と停滞する中で、円安によって2%インフレ定着を最重視すべき局面は続いており、金融引締め方向を強める対応を行う必要性は乏しい。当局は「投機的な円安は経済活動を不安定にさせる」と説明しているが、むしろ為替介入によってドル円市場が大きく動いたことから、経済活動を抑制する政策になっている。

日本では、保守的経済官僚が復権しつつある兆し

岸田官邸の意向をうけて為替介入が実現したのかは分からないが、そうだとすれば、円安を長引かせて2%インフレ定着を確実に実現するマクロ安定化政策が揺れ動いていることを意味する。「円安が問題」とする偏向した報道を間に受けているだけかもしれないが、支持率低下に直面する岸田政権の政治力が低下して、保守的な経済官僚が経済政策を左右しているのだろうか。

9月までに行われる自民党総裁選挙後の新政権次第だが、岸田政権が弱体化する中で、2012年までデフレという大問題を事実上放置してきた経済官僚が復権しつつある兆しが感じられる。最近の政治情勢をうけて、これまで妥当な政策を続けてきた植田総裁率いる日本銀行が、今後引締め政策を急ぐ展開が予想される。

米国では、FRB(米連邦準備理事会)による利下げ転換が近づく中で、金融市場ではトランプ氏が再選するとの期待が高まっている。7月21日にバイデン大統領が選挙からの撤退を表明して、ハリス副大統領が大統領候補となった。大統領選挙の行方は再び分からなくなったが、最終的にはトランプ優勢の状況は変わらないと筆者は予想している。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

最近の急速なウォン安・円安、深刻な懸念共有=日韓対

ワールド

米戦略石油備蓄の第1弾、来週末までに供給 8600

ビジネス

日立とGEベルノバ、東南アジアで小型モジュール炉導

ワールド

米商務省、AI半導体輸出の新規則案を撤回 公表から
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革命をもたらす「新世代ドローン」とは?
  • 3
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈祷」を中国がミーム化...パロディ動画が拡散中
  • 4
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 5
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 6
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 7
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 8
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    『ある日、家族が死刑囚になって』を考えるヒントに…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story