コラム

「円安を憂う声」は早晩消えていく

2024年05月16日(木)19時00分

日銀の金融政策を含めて円安への政策対応は概ね妥当

金融緩和の継続と円安進行は経済全体にとってプラスなのだから、仮に1ドル160円の円安でも、「行き過ぎている」とは言えないだろう。また、一部論者が声高に主張する、経済や通貨価値への信認の棄損で円安が進んでいる訳でもない。このため、緩和的な金融政策と整合的に円安を許容するのが望ましく、急激な変動にはスムージングの介入を行うことが望ましい対応だろう。これまでのところ、日銀の金融政策を含めて円安への政策対応は概ね妥当と筆者はみている。

先に紹介した「円安が行き過ぎている」との見解は、1970年代前半同様に円が割安になっていることを許容できないとの情緒的な思いがあるのだと考えられるが、投資判断の参考にはならない。そして、通貨当局が介入したのだから「円安ドル高は止まる」と考えるのは妥当ではないだろう。仮に、通貨価値への非合理な思い入れで、引締め政策を急いで通貨高を招くことになれば、日本経済にとって大きなリスクだと筆者は考えている。

FRBの利下げが始まるかどうかに依存

実際にドル高円安が転換するかどうかは、米国の経済活動やインフレが落ち着き、FRB(米連邦制度準備理事会)の利下げが始まるかどうかに依存する。9月会合までにFRBが利下げに踏み出すと筆者は予想しているが、5月15日に発表された4月CPIが落ち着いた伸びに戻りつつあることが示された。また、年初まで好調だった労働市場の調整が鮮明になる兆しが増える中で、個人消費の伸びも減速している。

パウエル議長は年内の利下げ開始を想定しているとみられるが、実際に9月会合までにFRBが利下げに踏み出す環境は整いつつある。こうした認識が夏場にかけて市場で強まる中で、円安は止まり年末までに円高に転じるだろう。筆者には、とても異様にみえる「円安を憂う声」は早晩消えていくのではないか。

(本稿で示された内容や意見は筆者個人によるもので、所属する機関の見解を示すものではありません)

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プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

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