コラム

「揺さぶられっ子症候群」と冤罪がテーマ......『揺さぶられる正義』で揺さぶられてほしい

2026年01月10日(土)14時30分

『揺さぶられる正義』が長くなった理由は、もちろん監督の生理だけではない。取り上げるケースがテレビ版より圧倒的に増えた。厚みも増した。特に終盤、上田監督と対峙する(現在の)被告人との対話は、実に深くて重い。

この対話でも示唆されるが、今の日本の刑事司法の歪(ひず)みを告発するこの映画で、上田監督は自らが帰属するメディア(事件報道)への批判を加えた。つまり関西テレビ報道部だ。


上田監督のこの視点は、僕も強く共有する。起訴されたなら有罪率は99.8%。つまり日本の検察や司法は精密で優秀だ。そんなことを本気で言う人がいる(主に検察や裁判所関係者)。

あきれる。こんな有罪率はあり得ない。大きな(歪〔ゆが〕んだ)力が働いていると考えるべきなのだ。

人質司法や可視化されない取り調べ、再審制度の不備や無罪推定原則の形骸化など、欧米からは中世並みと称される日本の刑事司法の問題点は、メディアが健全に機能しているならば、もっともっと整備されているはずだ。

メディアが自ら、無罪推定ではなく有罪推定の報道を繰り返すから、司法の現在の歪(ひず)みが是認されてしまっていることは明らかだ。

この映画をスクリーンで観た12月13日は、リバイバル上映の初日でもあり、上映終了後には僕と上田監督とのトークも予定されていた。

質疑応答の際には多くの人が手を挙げ、真摯な質問を上田監督にぶつけていた。そんな様子を見ながら、この観客席に映画の標的である司法とメディアの関係者はいるだろうかと考える。いてほしいと切に思う。

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、米国のイラン介入に備え厳戒態勢=関係筋

ワールド

北朝鮮の金与正氏、ドローン飛来で韓国に調査要求

ワールド

米ミネアポリスで数万人デモ、移民当局職員による女性

ワールド

米、来週にもベネズエラ制裁さらに解除=ベセント氏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画をネット民冷笑...「本当に痛々しい」
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 7
    決死の嘘が救ったクリムトの肖像画 ──ナチスの迫害を…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    美男美女と話題も「大失敗」との声も...実写版『塔の…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    中国が投稿したアメリカをラップで風刺するAI動画を…
  • 6
    次々に船に降り立つ兵士たち...米南方軍が「影の船団…
  • 7
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 8
    ベネズエラの二の舞を恐れイランの最高指導者ハメネ…
  • 9
    Netflix『ストレンジャー・シングス』最終シーズンへ…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story