「映画を語るなら観るべき」成瀬巳喜男監督『めし』の解釈について
大阪で妻の三千代(原節子)と暮らす岡本初之輔(上原謙)は、証券会社に勤めるサラリーマンだ。子供はいない。結婚5年で2人は早くも倦怠期を迎えている。理由の1つは仕事に一途な初之輔が、妻とほとんど会話しないからだ。
そこに初之輔の姪の里子が家出して転がり込み、奔放な言動で三千代の気持ちをかき乱す。夫の態度もはっきりしない。三千代は里子を家に送ることを口実に、母と弟夫婦が暮らす東京の実家に身を寄せる。
原作は林芙美子が1951年に朝日新聞に連載した新聞小説だ。林の急死で未完のまま連載終了となったが、井手俊郎と田中澄江が脚色を担当して、映画オリジナルのハッピーエンドを加筆した。もしも林が最後まで書いていたならば、きっとこのエンディングにはならない。でも映画としては、これでこぢんまりとまとまったことは確かだし、成瀬にとっても起死回生の一作となっている。
公開も51年。まだ戦後は終わっていない。初之輔や同僚たちのほとんどは、年齢的には戦地帰りのはずだ。だからこそ仕事に夢中になる。戦時中は国と天皇のために戦う皇国兵士。戦後は自分が勤務する会社のために働く企業戦士。共通することは滅私奉公。組織の一部として私を滅して奉公する。つまり日本の男は戦時も戦後も何も変わっていない。こうして女たちの不満は増幅する。
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