コラム

180分あれば... ずっしりと重い映画『怒り』は心理描写が物足りない

2022年12月16日(金)16時10分

八王子で発生した夫婦殺人事件が導線だ。犯人は逃走して事件は未解決。それから1年後、東京と千葉と沖縄にそれぞれ若い男が現れる。3人に共通していることは過去の素性がよく分からないこと。物語は3つの地域と捜査本部をカットバックしながら進行する。翻弄される周囲の人たち。疑いと怒り。

ネタバレになるから後半については書けないが、ずっしりと重い映画であることは大前提にしながらも、登場人物たちの心理描写について僕は不満だ。怒りや悲しみの源泉がよく分からない。吉田修一の原作は、もっと丁寧にディテールが描かれていたような気がする。尺は142分。たぶんこれでは足りないのだ。180分は必要だ。

次回も吉田修一原作の映画『悪人』について書く。なぜ李相日監督作を続けて取り上げるのか。その理由も書くつもりだ。

magmori221216_ikari2.jpg『怒り』(2016年)
監督/李相日
出演/渡辺謙、森山未來、松山ケンイチ、綾野剛

<本誌2022年12月20日号掲載>

プロフィール

森達也

映画監督、作家。明治大学特任教授。主な作品にオウム真理教信者のドキュメンタリー映画『A』や『FAKE』『i−新聞記者ドキュメント−』がある。著書も『A3』『死刑』など多数。

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