コラム

K-POP史に残るヒットメイカーとなったTEDDY 成功のカギは「アジア的な感性を忘れない音作り」

2025年09月13日(土)11時00分


BLACKPINKの2ndミニアルバムのタイトル曲「Kill This Love」 BLACKPINK / YouTube

BLACKPINKで独自のサウンドに挑戦

TEDDYがプロデュースや作詞・作曲の面で大きく飛躍したのは、2000年代後半以降のBIGBANGと2NE1、および両グループのメンバーたちのソロ作であり、さらに世界的な評価を得られたのはBLACKPINKの一連のヒットソングである。この頃は"自分だけが作れるダンスミュージックとは何か"を意識したものが目立つが、特にBLACKPINKの楽曲では大胆なリズムチェンジやブレイクを多用して他にはないサウンドにチャレンジしているのが面白い。

最も顕著な例が「Kill This Love」(2019年)と「How You Like That」(2020年)である。リズムのない箇所が随所に挿入され、ときには鼓笛隊を思わせるスネアの音や中近東風のアレンジなどを用いて、聴き手が容易に踊ることを許さない。さらに注目すべきなのは、サビに入る直前にバックの音数を最低限にしてキメのワードを入れる技だ。このあたりは韓国の伝統音楽パンソリの間の取り方に近いものがある。

異国の香りが漂うサウンド

以上のように王道のダンスミュージックから若干外れているTEDDYの作風が、なぜこれほどまでに受けるのか。その理由を断定するのは非常に難しいが、世界中でここしばらく音楽界のトレンドとなっている「異国の香りが漂うサウンド」と合致したのは間違いないはずだ。彼の持ち味は韓国人にとっては自国の風土に合った親しみやすさがあり、それ以外の国の人が聴けばフレッシュに感じられるといったところだろうか。

「K-POPはどんな音楽か?」と尋ねられると、私は「アジアの美意識がにじむファッションとメイク、ヒップホップ的な感性を生かしたキレのいいヴォーカル&ハーモニー、カルグンム(刀群舞)と呼ばれる一糸乱れぬダンスなどがK-POPであり、特定のサウンドを指すものではない」という回答をその都度してきた。だが最近は「TEDDYの作品こそがK-POPらしいサウンドなのではないか」と思うときもある。とにもかくにも彼の生み出す楽曲がヒットチャートを賑わす状況はまだ続きそうだ。

プロフィール

まつもとたくお

音楽ライター。ニックネームはK-POP番長。2000年に執筆活動を始め、数々の専門誌・ウェブメディアに寄稿。2012年にはK-POP専門レーベル〈バンチョーレコード〉を立ち上げ、イ・ハンチョルやソヒといった実力派を紹介した。現在は『韓流ぴあ』『ジャズ批評』『ハングルッ! ナビ』などで連載。LOVE FMLuckyFM楽天ポッドキャストの番組に出演中。著書は『K-POPはいつも壁をのりこえてきたし、名曲がわたしたちに力をくれた』(イースト・プレス)ほか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

台湾閣僚、「中国は武力行使を準備」 陥落すればアジ

ワールド

米控訴裁、中南米4カ国からの移民の保護取り消しを支

ワールド

アングル:米保守派カーク氏殺害の疑い ユタ州在住の

ワールド

米トランプ政権、子ども死亡25例を「新型コロナワク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「AIで十分」事務職が減少...日本企業に人材採用抑制…
  • 9
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 4
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story