コラム

半導体への巨額支援は失敗する

2022年01月11日(火)06時19分

特にターゲットになっているのはファーウェイで、2019年からは同社に対してアメリカ産のICやソフトを輸出するには商務省の許可が必要となった。この規制の結果、ファーウェイは米クアルコムのスマホ用ICや、グーグルのスマホ用OS「アンドロイド」に関連する各種アプリが入手できなくなり、大きな痛手をこうむるかに見えた。しかし、ファーウェイは子会社のハイシリコンで設計したスマホ用ICを使うことで難局を乗り越え、むしろ2020年第2四半期にはスマホにおける世界シェアを20%に伸ばして、世界トップのサムスンと肩を並べた。

するとアメリカは2020年5月にアメリカの技術やソフトを使ったICは他国製のものであってもファーウェイに輸出する際には米商務省の許可を必要とすると決めた。日本や韓国が作るICであってもファーウェイに輸出する際にはアメリカ様の許可が必要という無茶な要求であるが、これによって、ファーウェイはハイシリコンが設計して台湾TSMCに製造を委託していた5Gスマホ用ICを入手できなくなった。中国国内にもSMICなどICの製造受託会社は存在するのだが、中国最先端のSMICでさえ、ようやく14ナノメートルのレベルのICを始めようかという段階にあり、5Gスマホに必要な線幅7ナノメートルのICは作れないのである。それはアメリカ政府の圧力のために、SMICがEUV(極端紫外線)露光装置を輸入できないからである。

ファーウェイで顕在化した供給リスク

ファーウェイは事業の一部を売却するなどスマホ事業の大幅な縮小を余儀なくされた。こうして、半導体および半導体製造装置の供給リスクが顕在化したことで、中国政府の半導体国産化へ向けた決意がますます高まった。2019年には国家IC投資ファンドの第2期が始まり、2000億元(3兆4000億円)の資金を集めて再びICメーカーへの投資を始めた。

ところが、2021年に入ると、中国の半導体国産化戦略に失敗の空気が漂うようになった。2014年以降の膨大な投資にもかかわらず、2020年の半導体の国産化率は私の計算では24%にとどまった。半導体産業専門家のハンデル・ジョーンズ氏の推計では国産化率は16.6%にすぎないという。但し、彼の推計では中国国内で半導体を生産している外資系メーカーは国産化率にカウントされていない。いずれにせよ、「2020年に49%」という「中国製造2025技術ロードマップ」の目標を大幅に下回っている。

さらに、2021年7月には、これまで中国の半導体戦略の先兵として活動してきた紫光集団が破産した。紫光集団は、もともと清華大学の研究成果の産業化を目指す目立たない国有企業にすぎなかったが、2009年に、清華大学出身で新疆での不動産事業で当てた趙偉国がその資本の49%を取得して経営を掌握してから半導体事業に力を注ぐようになった。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、イラン・イスラエル仲介用意 ウラン保管も=

ワールド

イラン核施設、新たな被害なし IAEA事務局長が報

ビジネス

インド貿易赤字、5月は縮小 輸入が減少

ワールド

イラン、NPT脱退法案を国会で準備中 決定はまだ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story