最新記事

台湾

台湾危機を語るなら、まず論じるべきは半導体だ──イアン・ブレマー

2021年5月18日(火)17時31分
イアン・ブレマー(ユーラシアグループ代表)、アリ・ワイン(同シニアアナリスト)
世界最大の半導体メーカーTSMC本社(台湾・新竹市)

米中共にTSMCに依存している(台湾・新竹市の本社) EASON LAMーREUTERS

<台湾をめぐる米中対立の核心は「半導体メーカー」にあり。この視点から見えてくる両国の今後の動きとは>

英有力誌エコノミストは今月、台湾を「いま地球上で最も危険な場所」と評し、それを受け台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統も国防力の強化に努めていると答えた。報道や分析を見る限り、台湾をめぐる軍事衝突が迫っているようにも見える。

米中のテクノロジー面での競争が激化し、両国の軍事的緊張が高まるのに伴い、戦略上のリスクが増大していることは確かだ。しかし、近い将来に台湾で武力紛争が起きる可能性はまだ低い。

アメリカは、中国のテクノロジー分野での台頭を自国の安全保障への脅威と見なし、中国が技術力を武器に他国への影響力を強めることも警戒している。一方、中国はアメリカが中国の台頭を妨げようとしていると考えている。

この対立の核心にあるのが半導体だ。台湾には、世界最大の半導体メーカー、TSMC(台湾積体電路製造)がある。同社は、最先端の半導体で世界シェアの84%を占めている。米中は半導体の国内生産を増やす努力を加速させているが、輸入に依存する状況は当分変わりそうにない。要するに、米中両国はしばらくの間、TSMC抜きではやっていけないのだ。

習近平は台湾併合を急いでいない

米政府は、中国の圧力が強まり続ける台湾に、世界経済の要である半導体メーカーが本社を置いていることに不安を感じている。一方、中国政府は、TSMCがアメリカ軍に最先端の半導体を供給することを懸念している。つまり、TSMCが圧倒的な存在感を持っているために、台湾をめぐる米中対立は一層緊迫したものになるだろう。

この点は、明るい見通しには程遠い。しかし、緊張が高まっていることと、危機が目前に差し迫っていることを混同してはならない。

まず、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は台湾併合への意欲を示し続けているが、それを急ぐ気配はない。中国人民解放軍の完全近代化の目標年限も当初の2035年のままだ。一部の臆測とは異なり、軍創設100周年の27年への前倒しはされていない。

加えて、22年2月には北京冬季五輪の開催が予定されていて、同年秋の共産党大会で習は共産党トップとして3期目の続投を目指している。台湾を攻撃するという向こう見ずな行動を取るのに適したタイミングとは言い難い。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中