コラム

新疆における「強制不妊手術」疑惑の真相

2021年06月24日(木)18時35分
ウイグル族の女性と子供

ウイグル族の女性と子供(2013年、新疆ウイグル自治区のトルファンで) Michael Martina-REUTERS

<新疆ウイグル自治区では不妊手術が強制されていて出生率も急低下している、という中国に対する非難は本当なのか。他にも合理的な説明はつく>

中国の新疆ウイグル自治区では「強制労働」、「100万人の強制収容」、「不妊手術の強制」などさまざまな人権侵害が行われている、と西側で指摘されており、中国に対する政治的な圧力も加えられている。

このうち、「強制労働」の疑惑については、本コラムで以前に論じたように根拠が薄弱である。一方、100万人を再教育施設に強制収容した、とされる問題については、その人数についてはともかく、数多くの証言もあるし、中国政府も「再教育」を行ったことは認めている。

今回は「ウイグル族に不妊手術を強制している」という疑惑について検討する。

これについては、日本の新聞各紙が中国政府の統計を使って、新疆で卵管結束や精管結束による不妊手術が「急増」していることを指摘し、「強制不妊手術」や「ジェノサイド」との関連性を匂わせる報道を行っている。

管見する限りにおいて、最初にこの事実を指摘したのが2021年2月4日付の『西日本新聞』である。同記事によれば、「中国保健衛生統計年鑑」をみると、新疆での不妊手術を受けた男女の人数が2014年の3214件から2018年には約6万件に達し、18倍になったという。続いて3月30日付の『産経新聞』は、「中国衛生健康統計年鑑」の2014~19年版をもとに、新疆での不妊手術を受けた男女の人数が2013年の4265人から2018年には6万440人に5年間で14倍に伸びたとしている。

続いて、4月18日の『朝日新聞』「天声人語」が、「最近の中国の統計でも異常な数字が明らかになった」として、新疆の女性の不妊手術が2014年の3千件余りから18年には約6万件になった、と指摘している。

さらに5月19日付の『西日本新聞』は、新疆の出生率(人口1000人あたりの出生数)が2001年以降15~16前後で推移していたのが、2019年には8.14に低下し、全国平均さえ下回ったと指摘。不妊手術件数の急増を改めて指摘し、それが出生率の低下をもたらしたと主張した。

すると、翌5月20日にはこのNewsweek日本版に「ウイグル『ジェノサイド』は本当だった:データが示すウイグル族強制不妊手術数」とする記事が掲載された。前日の『西日本新聞』と同じ出所をもとに、新疆で出生率が急減し、人口あたりの不妊手術数が突出して多いと指摘し、「新疆ではジェノサイドが起きている」とした。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story