コラム

新疆の綿花畑では本当に「強制労働」が行われているのか?

2021年04月12日(月)11時45分

H&MのようにBCIが認証しないならダメだというのも一つの企業判断であるが、BCIは新疆での認証活動を中断する以前には中国全体で8万以上の綿花畑に認証を与えているので、BCIが2019年時点で認証を与えていた綿花畑については、急に状況が変わることはないだろうと推定して、引き続き使っていいものとする、というのも一つの企業判断である。

ともあれ、「新疆の綿花農業における強制労働」の証拠が不十分なのに、新疆綿を使い続ける企業は倫理に反すると指弾するのは軽率である。

<参考文献>
加々美光行『中国の民族問題――危機の本質』岩波書店、2008年
陳洪勝「新疆阿克蘇精心打造"服務+"模式 確保今年拾花工高質量転移創収」『山東法制伝媒網』2020年10月13日
胡学文「新疆綿花種植戸与拾花工的開心事」『証券時報』2011年9月15日
蘭玲玲・李秀萍「内地拾花工坐火車来新疆盛況不見了 烏魯木斉火車站見証兵団発展変遷」『兵団日報』2019年11月11日
新華視点「新疆綿花機採綿比例已達8成!早就不依頼手工採」2021年3月26日
新疆ウイグル自治区政府「関于做好拾花等季節性労務工作的通知」2016年9月1日
于江艶「2020年新疆貧困人口全部脱貧」『都市消費晨報』2015年12月4日
于亮「新疆各民族交往交流交融70年回顧」『新疆社会科学』2019年第4期
趙霞・潘紅「阿克蘇地区首次実現拾花工自給自足」『阿克蘇日報』2020年12月21日
Bao Yajun. The Xinjiang Production and Construction Corps: An Insider's Perspective. BSG Working Paper. BSG-WP-2018/023, January 2018.
Amy K. Lehr and Mariefaye Bechrakis. Connecting the Dots in Xinjiang: Forced Labor, Forced Assimilation, and Western Supply Chains. Center for Strategic and International Studies, October 2019.
Amy K. Lehr and Henry C. Wu. Addressing Forced Labor in the Xinjiang Uyghur Autonomous Region: Collective Action to Develop New Sourcing Opportunities. Center for Strategic and International Studies, February 2021.
John Sudworth. "China's 'tainted' cotton." BBC, December 2020.
Adrian Zenz. Coercive Labor in Xinjiang: Labor Transfer and the Mobilization of Ethnic Minorities to Pick Cotton. Newlines Institute for Strategy and Policy. December 2020.

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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