コラム

マイナンバーの活用はインドに学べ

2020年11月27日(金)21時18分

だが、マイナンバーを各団体に伝達するのに、なぜ電子メールに通知カードのコピーを添付して送るのではダメなのだろう。なぜ運転免許証などの本人確認書類のコピーも同封する必要があるのだろう。なぜ簡易書留で送れといってくるのだろう。ここが納得のいかないところだ。

そもそも本人確認書類とはいうものの、運転免許証やパスポートそのものを求めているわけではなく、それらのコピーを求めているにすぎない。運転免許証やパスポートを偽造するのは難しいが、それらのコピーを偽造することは簡単ではないだろうか。こんなおざなりな本人確認でいいのか。

メール添付で送るのはダメだというのは、漏洩を防ぐためなのであろうが、さて漏洩したとしていったいどのような不都合が生じるのかもよくわからない。誰かが私のマイナンバーを入手し、私が貰うべき特別定額給付金をくすねてしまう、ということはありうるとしても、給付する時に本人確認をきちんとすれば防げることであり、本人確認が厳格になされるならば、マイナンバーだけではほとんど何の悪事もできないはずである。

メリットがない、わからない

日本政府は2016年に全国民にマイナンバーを強制的に割り振ったが、マイナンバーが記載された写真付き身分証明書であるマイナンバーカードの方は希望者にタダで配ることにした。マイナンバーカードにはフェリカ(ICカード)が入っており、これを使えばオンラインで行政にかかわる申請ができるようになって行政のデジタル化を進められると政府は考えていた。

2019年4月までにマイナンバーカードを8700万枚交付することを目標にしていたが、その時点の交付枚数は1657万枚で目標に遠く及ばなかった。今年のコロナ禍のもとで1人10万円の特別定額給付金が支給されたときは、マイナンバーカードによるオンライン申請ができるようにして役立つことをアピールしようとしたが、オンライン申請がうまくいかなかった人々が大勢役所に詰め掛けて7時間待ちともいわれる状況になり、かえって役に立たないことをアピールする結果となった。

その後、マイナンバーカードを取得した人に5000円をプレゼントすることにしたのは、何が何でも国民に持たせたいという執念の現れであるが、さてこれほど膨大な国費を費やしていったいどれほどのメリットが国民と政府にあるのだろうか。5000円のエサをぶら下げられて飛びついたのは私など少数にとどまり、日本国民の多くは反応が鈍く、今年11月時点の交付枚数はなお2777万枚にとどまっている。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ウォルマートCEOにファーナー氏、マクミロン氏は

ワールド

中国、日本への渡航自粛呼びかけ 高市首相の台湾巡る

ビジネス

カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも利下げ

ビジネス

米国とスイスが通商合意、関税率15%に引き下げ 詳
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新作のティザー予告編に映るウッディの姿に「疑問の声」続出
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 7
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 8
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 9
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story