コラム

中国共産党の国有企業強靭化宣言

2019年11月19日(火)17時00分

石炭などエネルギーの分野では、2017年に大手発電企業の国電集団と石炭大手の神華集団が合併して国家能源投資集団ができた。また、地方では地域内の国有炭鉱を統合して一つの国有石炭企業にしてしまうという動きが遼寧省や貴州省で見られた。

国有企業の逆襲とでも言いたくなるような流れのなか、今年10月末に中国共産党の第19期4中全会が開催された。この会では、国家の統治機構全般にわたる能力の向上を図りましょう、という決定がなされた。

この決定は企業改革だけをテーマにしたものではなく、政府と共産党の仕事の全般について目下の任務と課題を確認するものとなっている。その項目は、中国政府の各部門や、中国共産党の内部機構に沿って立てられている。中国の国家統治機構には全国人民代表大会があって、裁判所があって、政治協商会議があって、みんなそれぞれに役割を果たしているんだ、ということはこの決定からよくわかるが、いまさらそんなことを確認してどういう意味があるのだろう。政治の役割とは、さまざまな課題に優先順位をつけていくことだと思うが、この長々とした決定から優先順位がまったく見えてこない。まさに総花的である。

ファーウェイ排除への対抗

そしてその上に習近平用語という「ふりかけ」がかかっている。5位1体、4つの全面、3大攻略戦、4つの意識、4つの自信、2つの擁護などなど。習近平は、誰よりも多く「数のついたスローガン」を生み出した指導者として後世に語り継がれることになるだろう。しかし、ふりかけに特段の意味があるわけではない。

問題は第19期4中全会の決定のところどころで、中国のこれまでの改革開放の路線を後退させるような内容が登場していることだ。企業改革に関するところを見ると、2013年の3中全会の決定の文章がほぼ丸写しされているが、そこに「国有企業の競争力、イノベーション力、支配力、影響力、リスク対応力を高め、国有資本を大きく強くする」という一文が新たに加わっている。最近の国有企業の逆襲にお墨付きを与える一文だ。

外資導入や市場開放についても基本的には従来の開放路線を維持しているものの、そこに次の一文が加わった。「外国企業の直接投資に対する国家安全審査、反独占審査、国家技術安全のリスト管理、信頼できない企業のリストなどの制度を整える。」今回このような一文が加わったのは、アメリカがファーウェイなど中国のハイテク企業を排除しようとしていることを意識している。つまり、もしアメリカが国家の安全を脅かすという理由で中国企業を排除するのであれば、中国だって同じ理由でアメリカ企業を排除できるんだよ、ということを言いたいのである。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豪のSNS年齢制限、「反対だが順守する」 メタなど

ワールド

ベセント氏、健全な金融政策策定が重要な役割 日米財

ビジネス

メタプラネット、発行済株式の13.13%・750億

ワールド

中国、プラ・繊維系石化製品の過剰生産能力解消へ会合
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    楽器演奏が「脳の健康」を保つ...高齢期の記憶力維持…
  • 7
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 8
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 9
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story