コラム

米中貿易戦争が起きたら、漁夫の利を獲りに行け

2018年04月13日(金)19時25分

ただ、米中貿易戦争が勃発すれば第3国はかえって得する面もある。実は、ドイツ企業が漁夫の利を得ようと躍動しはじめているのである。

アメリカ政府が問題にしている中国政府による「出資比率の制限」が行なわれている分野の代表例が自動車産業である。中国に進出しようとする外国自動車メーカーは中国の自動車メーカーと合弁企業を作らなければならないし、そこでの外資側出資比率は最大50%まで、また一つの外国メーカーが中国に設立できる合弁企業は2社までという制限がある。

だが、2017年6月に独フォルクスワーゲン(VW)は安徽江淮汽車と50:50の合弁により電気自動車(EV)を生産する企業を設立することを中国政府に認められ、3つめの合弁企業を中国に設立した。

EVは「中国製造2025」に挙げられている重点産業のなかでも中国政府の期待が高い分野である。中国政府は国内メーカーの育成に力を入れており、目下国産EVはもっぱら中国系メーカーによって生産されている。

中国政府は、車載電池やモーターなど基幹部品も国産化する態勢を作ろうとしており、そのために、車載電池では中国の技術規格に合う電池を搭載していないとEVに対する補助金をもらえないといった制限をしている。

有望なEV市場はドイツのもの?

しかし、VWは中国の有力電池メーカーである寧徳時代(CATL)と協力関係を構築することで、そうした制限もクリアし、今年から本格的に中国のEV市場に参入する。

VWの中国市場における最大のライバルであるGMが米中貿易戦争のあおりでもたつけば、VWはGMに差をつけることができる。

さらに、ドイツの半導体メーカー、インフィニオンは2018年3月に上海汽車と合弁企業を設立し、電気自動車をコントロールするパワー半導体(IGBT)を生産することを発表した。

アメリカが中国を制裁すると息巻いているのを尻目に、ドイツ企業は今後大きな成長が見込まれるEVに中国側の条件を受け入れつつ積極的に乗り出しているのである。

日本での米中貿易戦争に関する報道では日本への悪影響の懸念ばかりが伝えられている。だが、日本企業にも漁夫の利を得るチャンスがあることはもっと意識されてよい。

アメリカと中国が互いに高い関税をかけあうならば、アメリカ市場と中国市場の双方で日本製品は相対的に有利になり、アメリカ市場では中国からシェアを奪い、中国市場ではアメリカからシェアを奪うチャンスが生まれる。

「そんなえげつないことをしたらトランプに睨まれる」なんて遠慮していてはいけない。日本企業は決然と漁夫の利を獲得するために行動すべきだ。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

パキスタン国際航空、地元企業連合が落札 来年4月か

ビジネス

中国、外資優遇の対象拡大 先進製造業やハイテクなど

ワールド

リビア軍参謀総長ら搭乗機、墜落前に緊急着陸要請 8

ビジネス

台湾中銀、取引序盤の米ドル売り制限をさらに緩和=ト
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story