コラム

EVシフトの先に見える自動車産業の激変

2017年11月09日(木)13時51分

さらにここにEVシフトの影響が加わる。EVは、電池、モーター、コントロールユニットなどいくつかのユニット部品を組み合わせて作れるものなので新規参入が容易だ、とはよく指摘されるところである。となると、シェア自動車運営会社は、あたかもアップルがiPhoneを台湾のホンハイとぺガトロンの2社に作らせているように、複数の自動車メーカーに自社が使うEVの供給を競わせることも考えられる。要するに自動車メーカーが製造受託会社になるということだ。

そうなると、これまで自動車メーカーが付加価値の大きな割合を占めてきた状況ががらりと変わり、シェア自動車運営会社に付加価値の大きな部分を持っていかれるかもしれない。これまで日本の自動車メーカーは、内燃機関をもった自動車、そしてクルマの長期にわたる私有という前提条件によく適応してきたが、その二つの前提条件がこれから崩れるかもしれないのである。

日本にとって自動車産業はなお国際的に優位を保てる数少ない産業の一つだから、日本メーカーの競争力を削ぐような変化の到来を望まない心理が生まれるのは理解できる。だが、地球環境問題と交通の利便性という二つの課題に対して、私にはいまの日本のクルマ社会が最善の解だとは思えないのである。もし中国と欧州がEVシフトと自動車シェアリングによって二つの課題に対して現行の体制より良い解を示しうるとすれば、日本がそれに背を向けるわけにもいかなくなるだろう。

だから、日本の自動車メーカーには20年先、50年先を見据えて、先手を打ってほしいのである。「自動車産業をぶっ壊す」ぐらいの覚悟をもって、自動車シェアリングの事業に投資するようなことがあっていい。クルマ離れを嘆くのではなく、クルマを買わない・買えない人々の移動ニーズにどう応えるのかを考えてほしい。

──この記事は、電気自動車(EV)戦略についての考察の後編です。前編は「中国は電気自動車(EV)に舵を切った。日本の戦略は?」へ



【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!

ご登録(無料)はこちらから=>>


プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カザフスタン、アブラハム合意に参加へ=米当局者

ビジネス

企業のAI導入、「雇用鈍化につながる可能性」=FR

ビジネス

ミランFRB理事、0.50%利下げ改めて主張 12

ワールド

米航空各社、減便にらみ対応 政府閉鎖長期化で業界に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 3
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの前に現れた「強力すぎるライバル」にSNS爆笑
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 6
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 9
    あなたは何歳?...医師が警告する「感情の老化」、簡…
  • 10
    約500年続く和菓子屋の虎屋がハーバード大でも注目..…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story