コラム

中国と東欧はどっちが先進国?

2016年05月30日(月)17時00分

 長距離鉄道も便利で、最高速度こそ時速160キロぐらいまでしかでませんが、仏アルストム製の車両はとても快適でした。日本の新幹線以上に便利なのは、外国からでもネットを通じて席を予約でき、切符を自分でプリントアウトして持っていけばいいという仕組みです。ポーランドはドイツと同様に、駅に改札というものがないので、出発時間までに印刷した紙を持って車両に乗り込めばいいのです。

交通の矛盾が噴出

 それに比べて中国で2015年11月に杭州から南京に高速鉄道で行った時は大変でした。それぞれ人口900万人と800万人の巨大都市で、距離もさほど遠くないから、高速鉄道が整備されたいまは昔と違って切符も簡単に買えるだろう、とたかをくくっていたら大間違いでした。まず駅の窓口で切符を買うまで40分以上行列です。時々マナーの悪い人がいて横入りしようとするのを並んでいる人が体を張って阻止するのも昔ながらの光景です。さらに、ようやく手に入れた切符の出発時間がなんと3時間後。便数は多くなったのでしょうが、移動する人間も多くなったので、相変わらず席が足りないのです。結局杭州の高速鉄道駅に到着してから実際に南京行の列車が出発したのが4時間後でした。列車に乗っている時間は2時間足らずでしたが、出発駅での待ち時間にその2倍以上の時間を費やしたわけです。

 その日はたまたま混んでいたのでしょうが、ふだんでも中国で高速鉄道に乗る場合には駅に出発の30分前には着かなくてはなりません。X線による荷物検査があり、鉄道駅は無駄に大きいので構内を歩く時間もバカにならず、ホームに自由に立ち入ることはできず、出発15分前の一斉改札で入らなくてはならないからです。鉄道車両の走行スピードが時速300キロだ、350キロだといっても、こうした出発前の手続きの非効率性、下車後の都市内公共交通の貧弱さによって、鉄道がスピードアップした効果が相殺されてしまうのが中国の現状です。

 中国は高速鉄道も都市の地下鉄もここ5年ほどですごく整備が進みました。ハードウェアはもう先進国並みです。しかし運営面の効率が悪いため、期待したほど移動の効率は上がっていません。公共交通の便利さ・快適さが向上しないので人々は自家用車に乗りたがり、そのため道路は大渋滞です。中国では交通の矛盾が噴出しており、それはハードへの投資よりもむしろ運営面での改善によって緩和する可能性が大きいのです。その意味でやっぱり中国はまだ発展途上国です。中国と中東欧の関係においても、中国は「自分にはカネも技術もある」とふんぞり返るのではなく、互いに足りないところを補い合い、助け合うという姿勢で臨むことでより大きな成果を引き出せると思います。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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