ディズニーアニメで言葉を覚えた少年
ディズニーのキャラクターはオーウェンの大切な仲間 ©2016 A&E Television Networks, LLC. All rights reserved.
<自閉症の少年が言葉を取り戻し自立していく姿を追うドキュメンタリー映画『ぼくと魔法の言葉たち』>
トランプ政権が生んだ対立と分断が、アメリカ社会から障害者やマイノリティーなど一部の人々を排除していく。そんな不安を反映してか、今年のアカデミー賞候補作は『ラビング 愛という名前のふたり』『LION/ライオン~25年目のただいま~』『メッセージ』など、寛容と多様性の受容が大切だと語るものが目立った。
長編ドキュメンタリー賞の候補になった『ぼくと魔法の言葉たち』もそんな作品だ(日本公開中)。主人公は3歳で自閉症と診断されたオーウェン・サスカインド。両親はある日、2歳の息子の様子が変わったことに気付く。言葉が出なくなり、意思疎通もできない。時計の針が逆戻りしたようだった。
さまざまな手を尽くして何年か過ぎた後、サスカインド一家はコミュニケーションの新たな手掛かりを見つけた。ディズニーのアニメ映画だ。オーウェンは『アラジン』『ライオン・キング』など大好きな映画を通して言葉を覚え、周囲との関わりを理解するようになっていく。
『ぼくと魔法の言葉たち』が撮影されたのは14年のこと。ロジャー・ロス・ウィリアムズ監督は一家を1年半追い、学校の卒業を控えるオーウェンの日々をカメラに収めた。父親でジャーナリストのロン・サスカインドがオーウェンのことを書いた著書『ディズニ・セラピー 自閉症のわが子が教えてくれたこと』がベースになっている。
ウィリアムズと、オーウェンの母コーネリア・サスカインドに、本誌トゥファエル・アフメドが話を聞いた。
――映画製作のきっかけは?
ウィリアムズ ロンと私は15年前に仕事をしたことがあり、長年の友達だ。ロンが本を書いているときに「これはすごいドキュメンタリーになると思う」と言っていて、私もそう思った。
それから2週間もたたないうちに、私は学校のダンスパーティーで踊るオーウェンと恋人のエミリーを撮影していた。
――コーネリア、あなたやオーウェンの人生について本や映画で打ち明けることは思い切った決断だったと思うが。
サスカインド 大きな決断だったし、家族でたくさん話し合った。ロンは作家だから、「自閉症についての本を書くべきだ。オーウェンや自閉症を取り巻く問題について書くべきだ」とみんなからずっと言われていた。
それに対して、2つの答え方をしてきた。1つ目は、私たちはその問題に近過ぎるし、日々のさまざまなことで手いっぱいだ、ということ。2つ目はもっと重要で、オーウェンのプライバシーの問題がある、と。
作家が家族についての本を書こうとするのは悪いことではない。でもそれが障害のある子供についての本で、しかも彼はそのことについて意見をきちんと言えない状況には問題がある。
オーウェンは19歳のときにこう言った。「みんなはパパとママのことをありのままの姿で見てくれるけど、僕のことはありのままの僕として見てくれない」。そのとき初めて、オーウェンと私たちの道のりについての本を書くことを考えた。
息子が3歳や4歳、5歳の頃にこんな本があったら、私たちの助けとなったか? と自問した。答えはイエスだった。