コラム

テンセントの「ミニプログラム」がアップルの「アップストア」と全く異なる理由

2019年05月07日(火)17時35分

2017年に北京で行われた展示会での騰訊控股(テンセント)ブース Jason Lee-REUTERS

<中国メガテックの一角を成すテンセントは微信(WeChat)で知られ「中国のフェイスブック」とも呼ばれることもあるが、同社がいま注力している新しいサービスは、スマホアプリの概念まで変えてしまう可能性がある>

※本稿は、田中道昭『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版社)の一部を再編集したものです。

BATHはバイドゥ、アリババ、テンセント、ファーウェイという、中国の巨大テクノロジー(メガテック)企業を指す言葉。その一角を成すのが騰訊控股(テンセント)で、中国でアリババと株式時価総額トップの座を争う巨大企業です。SNSで急成長したことから、テンセントを「中国のフェイスブック」と呼ぶ人もいます。しかしテンセントは、実際には、知れば知るほどフェイスブックとの違いが際立っているのです。

フェイスブックはSNSで強固な基盤を築くことに特化して広告で稼ぐというビジネスを展開しています。対して、テンセントの事業領域はSNSを起点にしながらも非常に幅広く、ゲームなどのデジタルコンテンツの提供、決済などの金融サービス、AIによる自動運転や医療サービスへの参入、アマゾンのAWSのようなクラウドサービス、アリババと真っ向から勝負する「新小売」の店舗展開など多岐にわたります。もしテンセントとはどのような企業なのかと問われれば、「テクノロジーの総合百貨店」ということになるでしょう。

スマホアプリの概念を変える存在に?

テンセントの戦略の中で注目したいのが、ウィーチャットアプリで利用できる「ミニプログラム」です。同社の2018年第2四半期報告書では2ページを割いて解説されており、テンセントの注力ぶりがうかがえます。

ミニプログラムは2017年1月にスタートしたサービスで、簡単にいえば「アプリ内アプリ」の提供を可能にするものです。

たとえば、アップルが提供する「アップストア」に並ぶアプリは、すべてプラットフォーマーであるアップルの基本ソフト「iOS」に適した形で開発、申請して許可を受けたものです。つまり、アプリ開発者はアップルに応じた開発言語でアプリを開発し、アップルの審査を通さなければアプリを提供することができません。

この点、「ミニプログラム」は、プラットフォーマーへの申請が必要ありません。テンセントはアプリの開発者に、ウィーチャットをプラットフォームとして開放しているのです。つまりテンセントが認めたアプリであればウィーチャット上で提供できるわけです。

これは、これまでのスマホアプリの概念を変える可能性があります。中国では従来、アンドロイドスマホ向けのアプリストアが乱立する状況が続いていました。グーグルが撤退している中国ではグーグルプレイが使えず、バイドゥやテンセント、スマホメーカーなどが独自のアプリストアを運営しているからです。このためアプリ開発者は複数のストアへの対応が必要になるという問題がありました。

【関連記事】世界で最も自動運転車の社会実装を進めている会社は、意外な中国企業

プロフィール

田中道昭

立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。専門はストラテジー&マーケティング、企業財務、リーダーシップ論、組織論等の経営学領域全般。企業・社会・政治等の戦略分析を行う戦略分析コンサルタントでもある。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役(海外の資源エネルギー・ファイナンス等担当)、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)等を歴任。『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』『ミッションの経営学』など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない

ビジネス

米国株式市場=続落、ダウ453ドル安 原油高と雇用
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園で撮影された「恐怖の瞬間」映像にネット震撼
  • 4
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 9
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 10
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story