コラム

サウジ記者殺害事件と海南航空不審死をつなぐ「点と線」

2018年11月02日(金)12時49分

そして、この2つの事件に関わっているのが郭文貴だ。郭によれば、孟の失踪後、妻がフランスで顔を隠して会見したが、彼女に会見するよう電話で指示したのは彼だという。孟が中国に帰った後に一度自殺を試みたという情報があるが、これも郭が明かしてくれた。郭はサウジアラビアのムハンマド皇太子の叔父とも仲が良く、かつて大きな投資をたくさんしていた。郭がまだ外部にしゃべっていないサウジの秘密はおそらくたくさんある。

郭文貴はアメリカのトランプ政権にも影響を与えている。アメリカでは今、中国共産党がシンクタンクや大学に資金提供して中国政府寄りの態度を取るよう図っていたことが問題になっているが、テキサス大学オースティン校への「工作」を暴いたのは郭だ。

トランプ政権による中国との貿易戦争にも郭は「指示」を与えている可能性がある。ペンス副大統領が10月4日、ワシントンの保守派シンクタンクであるハドソン研究所で中国に対する「宣戦布告」とも評される厳しい演説をした。考えてみれば、副大統領が民間のシンクタンクで外交的に重要な演説をするのは少し変だ。

実はこの演説、トランプ政権と郭が組んで実現したのだという。演説のちょうど1年前の同じ日、郭がここで講演する予定だったが、なぜか突然、中止に追い込まれた。その時、郭の提案で1年後にペンスが講演することが決まった、というのだ。

「暴露王」郭文貴は嘘つきなのか?

日本の安倍首相は先日、たくさんの日本人ビジネスマンを引き連れて7年ぶりに訪中し、李克強首相や習近平国家主席と会談した。両国間で「第三国での経済協力」が確認されたが、これは事実上、中国の一帯一路構想を日本が受け入れたものだ。中国の独裁政権に資金提供することをトランプ政権は強く牽制している。アメリカが本気で仕掛けている貿易戦争のせいで、中国経済は減速を始めた。これから中国は厳しい時代を迎えるだろう。失速が始まった独裁国家の中国に、あえて入れ込もうとする安倍首相のやり方が正しいとは思えない。

暴露する情報が「玉石混交」だと、郭文貴を批判する人はいまだに多い。確かに郭は単なる民主活動家やジャーナリストでなく「政治家」だ。しかし、彼の暴露情報が王岐山や海南航空の運命を変えたのは事実だ。郭の言葉に、わが安倍首相も一度耳を傾けたほうがいいのではないかと進言しておく。

【お知らせ】
ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮情勢から英国ロイヤルファミリーの話題まで
世界の動きをウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ノーベル平和賞マチャド氏、授賞式間に合わず 「自由

ワールド

ベネズエラ沖の麻薬船攻撃、米国民の約半数が反対=世

ワールド

韓国大統領、宗教団体と政治家の関係巡り調査指示

ビジネス

エアバス、受注数で6年ぶりボーイング下回る可能性=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 3
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 4
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡…
  • 5
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 6
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 7
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story