コラム

災害対策、事故予防に 気象データの活用がモビリティ分野にもたらすメリット

2022年11月04日(金)13時25分

自然災害を予測し、未然に発災後の混乱を防ぐべく期待されるのが気象データの活用だ。

災害の多い日本だが、気象データの利用が進んでいるかと言えばそうでもない。ビジネスに生かそうと、気象庁が音頭をとって17年3月に「気象ビジネス推進コンソーシアム」を設立したが、その範囲はまだまだ限定的だ。

今のところ、小売業で冷たい飲み物やアイスクリームといった気温に売れ行きが左右される商品の仕入れを調整したり、傘を多めに店頭に用意しておくといった程度の活用例がほとんどだという。

世界最大の気象情報サービス会社であるザ・ウェザー・カンパニーやビジョン・コンサルティング社で気象データを用いて企業や官公庁向けにコンサルティングをしてきた加藤陽一氏は「より高度な気象データ活用の事例も増えているが、欧米と比較すると遅れをとっている」と語る。

「日本でも、あらゆる業種でビジネスに有効活用できる余地が残っている。特にモビリティ分野ではその重要性や有用性は高まっている」

気象データの利用によって可能になること

公共交通の運行や人の移動は気象の影響を大きく受ける。では災害対策や事故予防につながる部分で、これからどんな気象データをモビリティ分野で活用することが可能だろうか。

新幹線や特急などは前日の気象情報を元に計画運休するようになってきているが、やはり方針としてはできるだけ止めずに、遅れを出したとしても可能な限り運行するようだ。予測に基づく運休に積極的とは言えない。

一方、アメリカのアイダホ州では、寒冷地のバス運行の予測に気象データを活用し、予め運行が難しい場合の周知や天候急変への対応を実施して、全体コストの最適化を行っている。また日本ではNTTドコモは気象データ、人流データ、タクシー運行データを組み合わせて雨など悪天候の日でも安全で効率的な運行ができるAIタクシーを検討している。気象データには不確実性があるが、それを念頭に置いた上でも十分に利用価値はある。

また、公共交通が運行しているから大丈夫という判断ではなく、ダイヤの乱れや交通事故が懸念される雨や雪が予測される日は、学校や企業側が思い切ってオンライン授業や在宅勤務に切り替えるなども検討してみてはどうだろうか。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請1.8万件増の24.1万件、予想

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story