コラム

日本の公園が危険な理由 子どもを犯罪から守るには緑を控え目に、そして「フェンス」を

2023年01月11日(水)10時45分
公園

日本では公園設計にも精神論が影響?(写真はイメージです) Cuckoo-iStock

<「入りにくく見えやすい場所」が犯罪を遠ざけることが分かっているが、どんな公園なら安全と言えるのか。日本の防犯上の課題を整理し、海外の事例に学ぶ>

子どもが大好きな場所と言えば、真っ先に思いつくのが公園。しかし、子どもが集まるということは、犯罪者からすれば、犯行の機会(チャンス)があるということだ。魚がたくさんいる場所で釣りをするように、子どもを狙った犯罪者は、子どもがたくさんいそうな場所で「狩り」をする。

こうした視点を「犯罪機会論」と言う。

犯罪は、犯行の動機があるだけでは起こらず、動機を抱えた人が犯罪の機会に出合ったときに初めて起こる。それはまるで、体にたまった静電気(動機)が金属(機会)に近づくと、火花放電(犯罪)が起こるようなものだ。

しかし、日本では、「機会がある場所」ではなく、「動機がある人」に注目している。その結果、対策は「動機がある人」に抵抗する「マンツーマン・ディフェンス」(自助)になる。例えば、「防犯ブザーを鳴らそう」「大声で助けを呼ぼう」「走って逃げよう」という対策だ。

しかし、これらはすべて襲われた後のことであり、犯罪はすでに始まっている。つまり防犯ではない。危機管理の言葉を使えば「クライシス・マネジメント(危機対応)」であり、「リスク・マネジメント(危険回避)」ではないのだ。

一方、海外では、「人」ではなく、「場所」に注目している。「危ない人」は見ただけでは分からないが、「危ない場所(景色)」は見ただけで分かるからだ。場所に注目すれば、対策は必然的に場所で守る「ゾーン・ディフェンス」(共助・公助)になる。ゾーン・ディフェンスは、リスク・マネジメントの手法である。

犯罪が起きるのは「入りやすく見えにくい場所」

では、「機会なければ犯罪なし」という視点から、公園を安全にするには、何をどうすべきなのか。

犯罪機会論の長年にわたる研究の結果として、事件が起きやすい場所は「領域性が低い(入りやすい)場所」と「監視性が低い(見えにくい)場所」であることがすでに分かっている。犯罪者は景色を見て、犯罪が成功するかどうか、つまり、犯行機会の有無を判断するわけだが、その基準が「入りやすいかどうか」「見えにくいかどうか」なのだ。

「入りやすい場所」では、犯罪者は怪しまれずにターゲットに近づくことができ、すぐに逃げることもできる。そのため、そこには犯罪が成功しそうな雰囲気が漂っている。また、「見えにくい場所」では、そこでの様子をつかむことが難しいので、犯罪者は余裕しゃくしゃくで犯行を準備することができ、犯行そのものも目撃されそうにない。そのため、そこにも犯罪が成功しそうな雰囲気が漂っている。

このように、「入りやすく見えにくい場所」で犯罪が起きやすいなら、対策は、その場所を入りにくくする、見えやすくする、ということになる。犯罪者が景色を見たときに、「犯罪は失敗しそうだ」と思い、犯罪をあきらめるような場所にするわけだ。これが、犯罪機会論に基づく対策である。

プロフィール

小宮信夫

立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

パラマウント、スカイダンスとの協議打ち切り観測 独

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年1月以来の低水準

ワールド

アングル:コロナの次は熱波、比で再びオンライン授業

ワールド

アングル:五輪前に取り締まり強化、人であふれかえる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story