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日本の公園が危険な理由 子どもを犯罪から守るには緑を控え目に、そして「フェンス」を
こうして、海外では、都市計画や公園づくりから、住宅や学校の建設、駅やショッピングモールのレイアウトまで、犯罪機会論に基づくデザインが採用されている。
この二つのキーワードを公園に当てはめてみよう。
まず、「入りにくい場所」にするための戦略は、ゾーン・ディフェンス(閉鎖的守備)で、その戦術はゾーニング(すみ分け)である。具体的には、子ども向けエリアと大人向けエリアを明確に分け、遊具は一カ所に集め、フェンスで囲むのだ。
次に、「見えやすい場所」にするため、大人向けエリアには豊かな緑を配置するが、子ども向けエリアの緑は控え目にする。
さらに、遊具を背にしたベンチをフェンス外周に置けば、物色中の犯人にいち早く気づける。SP(要人警護官)と同じ視線を生むレイアウトにすることで、「見えやすい場所」にできるのだ。
海外では、こうしたレイアウトが一般的であり、子ども向けエリアは「パーク」と区別された「プレイグラウンド」と呼ばれている。
ところが日本の公園は、ほとんどがマンツーマン・ディフェンス(開放的守備)である。前述したように、「場所で守る」というのではなく、防犯ブザーや大声などで「犯人と対決する」という発想だ。
公園をフェンスで囲むことに対しては、「檻のようだ」として、「開かれた公園」という理念に反するという批判がある。しかし、この批判は、有形のハードウエアと無形のソフトウエアを混同している。
こうした混同は前にもあった。「開かれた学校」という理念が流行したときだ。
「開かれた学校」は本来、ソフト面の「地域との連携」を意味していたにもかかわらず、ハード面の「校門の開放」と勘違いする学校が続出した。その結果、8人の児童が刺殺された大阪教育大学付属池田小事件が発生した。門開放の責任を認めた学校側は5億円の賠償金を支払っている。
ちなみに、海外の学校では、ハード的にはクローズにしているが、ソフト的にはオープンだ。例えば、イギリスでは、正規の教員のほかに、地域ボランティアが教室にいる。
西洋人にとって「フェンス」はポジティブ、日本人にはネガティブ
フェンスがそのままタイトルになった映画がある。デンゼル・ワシントンが監督と主演をこなし、ビオラ・デイビスがアカデミー賞の助演女優賞を獲得した映画『フェンス』だ。
この映画に対する批評においても、フェンスをめぐる西洋人と日本人の意識の違いが見て取れる。例えば、日本のある新聞では、映画タイトルの「フェンス」の意味を、「人種間の壁であり、夫婦の溝であり、親子の葛藤である」と説明していた。しかし、この解釈は的外れだ。欧米メディアの解釈とは異なる。
映画の中でビオラ・デイビスが歌っているゴスペル「JESUS BE A FENCE AROUND ME」(イエスよ、私を囲むフェンスになって)からも明らかなように、ここでの「フェンス」の意味は「人種差別という悪魔から家族を守るもの」だ。つまり、この映画は、フェンスの中に息子をつなぎとめて守りたい父親と、フェンスの外に出てリスク覚悟でチャレンジしたい息子、そして両者の気持ちが分かる母親が織りなす人間模様を描いた作品なのである。
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