コラム

五輪閉会式であなたが「消化不良」「違和感」「失望」を覚えた理由

2021年08月09日(月)15時56分

閉会式全体の統一的イメージがシェアされていなかった? Kareem Elgazzar-USA TODAY Sports/Reuters

<東京五輪が閉幕した。バッハIOC会長と橋本聖子・東京大会組織委会長の長すぎる演説に途中退場した選手たちだけでなく、閉会式の内容に違和感を覚えた国民も少なくなかったようだ。消化不良の閉会式は、今大会と日本社会が抱えたある問題を象徴していた>

東京五輪が終わった。昨日8月8日に行われた閉会式は、宝塚歌劇団による国歌斉唱やソプラニスタ岡本知高氏によるオリンピック賛歌独唱など、個々の演目に素晴らしいものがあったが、閉会式全体の感想としては、多くの人が程度の差はあれ消化不良だったと感じ、あるいは違和感を覚えたのではないか。中には失望を抱いた人もいるだろう。

閉会式のコンセプトは「Worlds we share」(一人ひとりの持つ異なる世界を共有しあって生きていること)だとされており、ダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(包摂または調和)が重視されていた。そのこと自体は良い。

しかし、閉会式全体を通してみると、両者のバランスが取れていないことが消化不良を感じた根底にあるようにも思われた。敢えて言うとダイバーシティの主張が過剰で、「あれもこれも」という小粒の演出が目に付き、式全体の統一的イメージが誰にもシェアされていない感があった。これは開会式の演出にも感じられたことだ。

開会式の直前には、過去の「障碍者いじめ自慢」と「ホロコースト揶揄コント」が批判を浴びて、音楽担当者が辞職し演出担当者が解任された。そのことによる演出計画全体の混乱もあったであろう。

また、五輪エンブレム問題に始まり、招致活動における利益供与疑惑や女性蔑視発言による組織委会長辞任に至るまで、これほど多くのコンプライアンス問題に見舞われた大会はない。

「応答感度の鈍麻」を露呈した大会

コンプライアンスは今では、法令遵守に限らず、社会的要請への応答と理解されている。例えば日本では、ホロコーストを揶揄するような表現活動をしたからといって直ちに法令に違反するとは限らない(ドイツ等では別だが)。しかし、社会的文脈の中で批判を浴びて、組織または個人がダメージを受ける事態が生じうる。これは法令違反の問題ではなく、社会的要請への応答に失敗したということを意味する。今回の事案はコンプライアンス問題の典型だ。グローバル社会を相手にするのであれば、応答感度の鈍麻は深刻な問題なのだ。

プロフィール

北島 純

社会構想⼤学院⼤学教授
東京⼤学法学部卒業、九州大学大学院法務学府修了。国会議員政策秘書、駐日デンマーク大使館上席戦略担当官を経て、現在東洋学園大学大学院現代経営研究科非常勤講師を兼務。専門は戦略的パートナーシップ、情報戦略、コンプライアンス(腐敗防止)。著作に『解説 外国公務員贈賄罪』(中央経済社)、論文に「グローバル広報とポリティカル・コンプライアンス」(「社会情報研究」第2巻1号)などがある。
Twitter: @kitajimajun

今、あなたにオススメ

ニュース速報

ビジネス

英景気後退、追加利上げでさらに深刻・長期になる恐れ

ワールド

米軍戦略爆撃機B─21レイダー公開、核搭載可能な「

ワールド

中国主席、欧米製ワクチン受け入れに否定的=米情報機

ワールド

ロシア産原油の上限価格は「不十分」、ウクライナ大統

今、あなたにオススメ

MAGAZINE

特集:台湾半導体 王国に迫るリスク

2022年12月 6日号(11/29発売)

急成長で世界経済を席巻するTSMC。中国から台湾を守る「シリコンの盾」に黄信号が?

メールマガジンのご登録はこちらから。

人気ランキング

  • 1

    「犬は飼い主に忠誠心をもつ」は間違い 研究で判明した「犬が本当に考えていること」

  • 2

    ロシア軍がミサイル発射「大失敗」、ロシア国内の住宅地に着弾する瞬間の映像

  • 3

    【英王室】3人のプリンセスたちの訪米ファッションに注目!

  • 4

    スーパーモデル、ベラ・ハディッドがヌードで登場、…

  • 5

    ロシア戦闘機が非武装イギリス機に「ミサイル発射」…

  • 6

    本当にただの父娘関係? 24歳モデルと父親の写真、距…

  • 7

    ロシア国内で「軍用機の墜落」が続発...ロシア空軍、…

  • 8

    プーチンの「忠犬」ルカシェンコ、暗殺に怯える日々

  • 9

    偏差値が測定できない「ボーダーフリー大学」が象徴す…

  • 10

    息子たちは「もうやめて」と懇願...それでもブリトニ…

  • 1

    「犬は飼い主に忠誠心をもつ」は間違い 研究で判明した「犬が本当に考えていること」

  • 2

    W杯、ホテルは想定外のガラガラ状態 サッカーファンの足もと見たカタールにしっぺ返し

  • 3

    ロシア軍がミサイル発射「大失敗」、ロシア国内の住宅地に着弾する瞬間の映像

  • 4

    「性的すぎる」広告批判は海外でも...高級ブランドが…

  • 5

    本当にただの父娘関係? 24歳モデルと父親の写真、距…

  • 6

    ロシアはウクライナでなく日本攻撃を準備していた...…

  • 7

    プーチン「重病説」を再燃させる「最新動画」...脚は…

  • 8

    【英王室】3人のプリンセスたちの訪米ファッションに…

  • 9

    スーパーモデル、ベラ・ハディッドがヌードで登場、…

  • 10

    自分を「最優先」しろ...メーガン妃、ヘンリー王子へ…

  • 1

    セレブたちがハロウィンに見せた本気コスプレ、誰が一番? 「見るに堪えない」「卑猥」と酷評されたのは?

  • 2

    ロシアはウクライナでなく日本攻撃を準備していた...FSB内通者のメールを本誌が入手

  • 3

    本当にただの父娘関係? 24歳モデルと父親の写真、距離感が「気持ち悪い」と話題に

  • 4

    血糖値が正常な人は12%だけ。「砂糖よりハチミツが…

  • 5

    「犬は飼い主に忠誠心をもつ」は間違い 研究で判明し…

  • 6

    W杯、ホテルは想定外のガラガラ状態 サッカーファン…

  • 7

    プーチン「重病説」を再燃させる「最新動画」...脚は…

  • 8

    カメラが捉えたプーチン「屈辱の50秒」...トルコ大統…

  • 9

    ロシア軍がミサイル発射「大失敗」、ロシア国内の住…

  • 10

    食後70分以内に散歩、筋トレ、階段の上り下り。血糖…

PICTURE POWER

レンズがとらえた地球のひと・すがた・みらい

英会話特集
日本再発見 シーズン2
World Voice
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
羽生結弦アマチュア時代全記録
CCCメディアハウス求人情報

MOOK

ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中