コラム

女児3人死亡、英ダンス教室「刃物襲撃」事件...暴動にまで発展した、犯人めぐる「デマ」とは?

2024年08月01日(木)17時36分
英ダンスクラス刃物襲撃の余波

犠牲になった子どもたちへの献花を見つめる市民(7月30日) REUTERS/Temilade Adelaja/File Photo

<テイラー・スウィフトをテーマにした子ども向けダンスクラスが暗転。逮捕された少年をめぐる「情報の空白」で事態は思わぬ方向に発展>

[ロンドン発]英イングランド北西部マージーサイド州サウスポートのスタジオで7月29日昼前、米人気歌手テイラー・スウィフトさんをテーマに子ども向けヨガ・ダンスクラスが開かれていた。ナイフで武装した17歳の少年が建物の中に入ってきて子どもたちを次々と刺した。

現場に駆けつけた警察官が少年を逮捕した。ダンスクラスには6~10歳の小学生25人が参加しており、ベベ・キングちゃん(6つ)とエルシー・ドット・スタンコムちゃん(7つ)、アリス・ダシルヴァ・アギアーちゃん(9つ)の少女3人が死亡した。

8人の子どもたちが負傷し、うち5人が重体。子どもたちを守ろうとしたリアン・ルーカスさん(35)らダンス教師2人も重傷を負った。翌30日夕、地元のカルチャーセンターで追悼集会が開かれ、数百人が参加して花を手向け、ロウソクを灯し1分間の黙祷を捧げた。

スウィフトさん「恐怖が絶えず私を襲う」

逮捕された少年の両親はルワンダ出身。少年はウェールズ・カーディフで生まれ、2013年にマージーサイドに引っ越してきた。カーディフ時代の隣人は「少年は普通の子どもで内気だった。父親と一緒に空手のクラスに参加していた」と英大衆紙デーリー・メールに語っている。

スウィフトさんは30日、自らのインスタグラムのストーリーに「サウスポートの恐怖が絶えず私を襲っている。ショックを受けている。無垢な命が奪われたのはダンスクラスに参加した小さな子供たちだった。家族にどのようにお悔やみを伝えればいいのか言葉を失う」と投稿した。

スウィフトさんの英国ツアーを観賞した筆者には子どもたちをダンスクラスに参加させた母親たちの気持ちがよく分かる。夏休みの思い出にせめてスウィフトさんをテーマにしたダンスクラスに参加させようと思ったに違いない。悲劇が起きるとは想像もしていなかったはずだ。

チャールズ国王も「深い衝撃を受けている」

「スウィフティーズ・フォー・サウスポート」というクラウドファンディング・ページは多くの負傷者が治療を受けたアルダー・ヘイ小児病院のために31万3000ポンド(約6000万円)以上を集めた。チャールズ国王もX(旧ツイッター)に「深い衝撃を受けている」と投稿した。

リバプールの北27キロメートル、アイリッシュ海に面した人口約9万4000人のサウスポートを襲った悲劇はこれだけで済まなかった。追悼集会の1時間後、集結した極右や暴徒200~300人が地元モスク(イスラム教の礼拝所)の窓ガラスをすべて壊し、フェンスを燃やした。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日銀、政策金利を現状維持:識者はこうみる

ビジネス

アルコア、第2四半期の受注は好調 関税の影響まだ見

ワールド

英シュローダー、第1四半期は98億ドル流出 中国合

ビジネス

見通し実現なら利上げ、米関税次第でシナリオは変化=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 10
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story