コラム

不倫口止め料裁判「有罪評決」のトランプ前米大統領を「擁護」...ジョンソン元英首相の論理とは?

2024年06月01日(土)18時00分
有罪評決トランプをジョンソン元英首相が擁護

トランプとジョンソン(2017年9月) Kevin Lamarque-Reuters

<トランプへの不倫口止め料裁判での有罪評決を、ジョンソン元英首相は「露骨に政治的なもの」と批判>

[ロンドン発]アダルト女優への不倫口止め料を不正に会計処理したとされるドナルド・トランプ前米大統領に対し、ニューヨーク州地裁の陪審は5月30日、34すべての罪状で有罪評決を下した。米大統領経験者への有罪評決は初めてだ。7月11日に判事から量刑が言い渡される。

トランプ氏は「不正な裁判だ。この国と憲法を守るために必要なことは何でもする。われわれは戦うつもりだ」と控訴する方針を明らかにした。実刑になっても大統領選の候補資格は失わず、大統領に返り咲いた暁には職務遂行に支障を来すとして州の刑事手続きに介入することもできる。

「多くの共和党員は依然としてトランプ氏を支持しており、公職や法廷外でのトランプ氏の欠点を認めながらも大統領選では彼に投票するだろう。実際、共和党員の56%はトランプ氏の性的スキャンダルは大統領選への出馬資格を剥奪する理由にはならないと考えている」

トロント・メトロポリタン大学(カナダ)のユージン・チャン准教授らは豪非営利メディア「ザ・カンバセーション」でこう解説する。トランプ氏の行為は褒められたものではないが、トランプ氏は自分たちのために職務を果たしてくれるという「モラル・デカップリング」が働く。

英国の「政界の道化師」の援護射撃

トランプ氏のセクハラは認識しているが「トランプ氏は政治的な魔女狩りの犠牲者だ」「トランプ氏に対する現在の裁判や告発は選挙妨害の一種」とトランプ支持者は考える。有名映画監督の性的スキャンダルには目をつぶり、名作を支持し続ける人がいるのと同じ心理構造だ。

トランプ氏が大統領に返り咲くことこそが、自分自身の禊になると言わんばかりにトランプ氏を援護射撃する英国の政治家がいる。「政界の道化師」ボリス・ジョンソン元英首相だ。英大衆紙デーリー・メール(5月31日)に「機関銃を使った暴徒のような暗殺計画だ」と寄稿した。

「マンハッタンの法廷で陪審員は『有罪』評決を34回も繰り返した。普通の政治的暗殺ではない。暴徒がトランプ氏を機関銃で襲撃したような攻撃だった。これはトランプ氏の世論調査でのリードの終わりを意味するに違いないと左派リベラルメディアは興奮した」(ジョンソン氏)

「識者の明らかな驚きをよそに有権者の大半は評決に無関心であることが判明した。しかし、少なくとも私が目にした世論調査では有罪の評決を受けたらトランプ氏に投票する可能性が高くなると答えた人が15%もいたのには驚いた」(同)

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米株式ファンドの資金流出、3カ月ぶりの大きさ トラ

ワールド

金総書記、ロシア高官と会談 「主権守る取り組み支持

ビジネス

トルコ主要株価指数、週間で08年以来の大幅安 政局

ビジネス

FRB当局者、政策変更急がずと表明 トランプ関税の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平
特集:2025年の大谷翔平
2025年3月25日号(3/18発売)

連覇を目指し、初の東京ドーム開幕戦に臨むドジャース。「二刀流」復帰の大谷とチームをアメリカはこうみる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャース・ロバーツ監督が大絶賛、西麻布の焼肉店はどんな店?
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    止まらぬ牛肉高騰、全米で記録的水準に接近中...今後…
  • 5
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 6
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 8
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 9
    医師の常識──風邪は薬で治らない? 咳を和らげるスー…
  • 10
    コレステロールが老化を遅らせていた...スーパーエイ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研究】
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    失墜テスラにダブルパンチ...販売不振に続く「保険料…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 7
    「若者は使えない」「社会人はムリ」...アメリカでZ…
  • 8
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 9
    「気づいたら仰向けに倒れてた...」これが音響兵器「…
  • 10
    ローマ人は「鉛汚染」でIQを低下させてしまった...考…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story