コラム

効果は高いが、貧困層には死活問題...ロンドン「超低排出ガスゾーン」規制、市全域への適用めぐる大激論

2023年07月29日(土)17時10分
ロンドン「超低排出ガスゾーン」の道路標識

「超低排出ガスゾーン」を示す道路標識(筆者撮影)

<環境基準を満たさない車には1日で約2300円の通行料が。カーン市長の政策をめぐり、ライバルの保守党が激しい攻撃を仕掛けている>

[ロンドン発]最大野党・労働党のサディク・カーン市長が8月に、環境基準を満たさないガソリン車やディーゼル車に1日12.5ポンド(約2300円)の通行料を課す「超低排出ガスゾーン」をロンドンの中心部から全行政区に拡大する政策を巡り、政党支持率で労働党に20ポイント以上の差をつけられる与党・保守党が反転攻勢を仕掛けている。

 
 
 
 
 

ロンドンの大気汚染はがん、ぜんそく、肺疾患など市民の健康を害しており、高齢者の認知症リスクも高めている。毎年何千人が早死にしている。主な原因は汚染車両だ。道路交通は二酸化窒素や粒子状物質の唯一最大の排出源。これはロンドン中心部の問題にとどまらない。大気汚染に関連した死亡が最も多いのは中心部の外側であるため、ゾーンが拡大された。

超低排出ガスゾーンはもともと保守党のボリス・ジョンソン元首相がロンドン市長だった2015年に「20年9月からの運用開始」を発表。次のカーン市長が前倒しして19年4月に導入した。乗用車では05年以前に新車登録したガソリン車、15年9月以前に新車登録したディーゼル車が規制対象となった。ただし環境基準を満たしていれば通行料は免除される。

当初は「渋滞税」が課せられる下図の赤色で囲まれたゾーンが対象だったが、21年10月に緑色で囲まれたゾーン(約611平方キロメートル、約380万人)に拡大され、今年8月29日にはロンドンの全自治区が対象となる予定だ。拡大後の面積(約1560平方キロメートル)は現行の約2.6倍となり、新たに500万人にきれいな空気が提供される。

230729kmr_hoc02.jpg

(出所)ロンドン市交通局

ロンドン中心部の二酸化窒素汚染を50%削減

ロンドン市交通局によると、超低排出ガスゾーンの導入で環境基準を満たさないガソリン車やディーゼル車は激減し、これまでにロンドン中心部の二酸化窒素汚染を50%も削減した。16年から20年にかけ、ロンドンの大気汚染は英国の他の地域より5倍のスピードで改善された。50年までに100万人以上の入院を防ぐことができるという。

世界保健機関(WHO)のガイダンスによると、ロンドン中心部の外側にあるすべての行政区で有害大気粒子は安全基準を超えている。新たに対象となる地域を走る車10台のうち9台はすでに環境基準をクリアしており、残り1台の環境車への移行を進めるため、カーン市長は約20万台分1億1000万ポンド(約200億円)のスクラップ・スキームを立ち上げる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏 、 ホルムズ海峡に多くの国が軍艦派遣と

ビジネス

イラン情勢注視続く、FRB金利見通しも焦点=今週の

ワールド

イスラエル、レバノンと数日内に協議へ ヒズボラと戦

ワールド

北朝鮮の金総書記、多連装ロケット砲の発射訓練視察=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目のやり場に困る」衣装...「これはオシャレなの?」
  • 3
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革命をもたらす「新世代ドローン」とは?
  • 4
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 5
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈…
  • 6
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 7
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 8
    ホルムズ封鎖で中国動く、イランと直接協議へ
  • 9
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 10
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 8
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story