最新記事

地球大気

「地球の自転速度が遅くなったことで地球大気の酸素量が増えた」との新たな説が発表される

2021年8月6日(金)18時30分
松岡由希子

自転速度の変化が大気の酸素化と関連している? m-gucci-iStock

<独マックスプランク海洋微生物学研究所などが、「地球の自転速度の変化が地球大気の酸素化と関連している可能性がある」との新たな説を発表した>

地球は、約45億年前に誕生して以降、月の引力によって自転速度が遅くなり、1日の長さが徐々に伸びている。

1日の長さはわずか6時間だった

地球誕生直後の1日の長さはわずか6時間であったが、14億年前には約18時間40分にまで長くなった。1日の長さは、1世紀あたり1.8ミリ秒長くなっていると推定されている。

また、地球誕生直後、地球大気や海洋にはわずかな酸素しか存在しなかった。約24億年前、酸素発生を伴う光合成を行う藍藻(シアノバクテリア)が誕生して繁殖し、大量の酸素を放出した「大酸化イベント(GOE)」と呼ばれる現象により、大気中の酸素が大幅に増えたと考えられている。

「自転速度の変化が大気の酸素化と関連している可能性がある」

独マックスプランク海洋微生物学研究所、米ミシガン大学アナーバー校らの研究チームは、地球の自転速度の変化と大酸化イベントに着目。2021年8月2日、学術雑誌「ネイチャージオサイエンス」で「地球の自転速度の変化が地球大気の酸素化と関連している可能性がある」との新たな説を発表した。

研究チームは、この説を検証するため、北米の五大湖のひとつ「ヒューロン湖」の水深80フィート(約24.4メートル)の陥没穴で微生物マットの試料を採取した。この水域は比較的浅く、藍藻が太陽光を十分に吸収して光合成できる一方、湖底から貧酸素水や硫黄ガスが湧き出ており、太古の地球と似た酸素欠乏状態になっている。

この微生物マットにハロゲンランプで人工的に光を与え、光合成によって放出される酸素量を調べたところ、照射時間が長くなるほど、微生物マットから放出される酸素量が増えることがわかった。

さらに研究チームは、地球規模で太古の藍藻が発生させた酸素量を算出する数値モデルを構築し、シミュレーションを行った。その結果、地球の酸素量は段階的に増えたことが示された。

具体的には、約24億年前の大酸化イベントを起点として酸素量が大幅に増加した後、酸素量がほぼ一定となる期間を経て、約5〜7億年前の「新原生代酸化イベント(NOE)」と「古生代酸化イベント(POE)」でさらに増加した。

1日の長さも同様の段階的なパターンで伸びていることから、日照時間が長くなることで微生物の光合成が活発になり、酸素量が増加したのではないかと考えられている。

地球科学において長年の疑問だった

研究論文の責任著者でミシガン大学アナーバー校のグレゴリー・ディック教授は「地球科学において『地球大気がどのように酸素を得、どのような要因が地球大気の酸素化のタイミングを制御したのか』が長年の疑問であった」とし、「この研究成果は、地球の自転速度、つまり1日の長さが、地球の酸素化のパターンやタイミングに重要な影響をもたらしている可能性があることを示している」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ゼレンスキー氏、和平巡る進展に期待 28日にトラン

ワールド

前大統領に懲役10年求刑、非常戒厳後の捜査妨害など

ワールド

中国、米防衛企業20社などに制裁 台湾への武器売却

ワールド

ナジブ・マレーシア元首相、1MDB汚職事件で全25
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 8
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中