コラム

寒さと飢えで亡くなる人も...値上げと不況にあえぐ英国、過去10年で最大のストも発生

2023年02月02日(木)17時48分

実質賃金は2.6%も低下

今回の教職員ストは労組が教職員に学校に出勤するかどうかを事前に伝えるのを拒否するよう促したため混乱が拡大した。これを受けてスナク政権はストに参加するか否かを校長に事前報告することを義務付ける新法の検討を始めた。昨年夏、英中銀・イングランド銀行は大幅な賃上げはインフレを長引かせると警告したが、実質賃金は2.6%も下がっているのだ。

国際通貨基金(IMF)は、今年、英国経済は先進7カ国(G7)の中では唯一0.6%のマイナス成長になると予測。イングランド銀行は、英国は過去100年間で最も長い不況に突入し、24年半ばまで続くと予想している。英シンクタンク、欧州改革センターなどの報告書では、EU離脱によって労働人口は33万人も減少した。

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政権交代を訴える市民(筆者撮影)

EUを離脱することで浮いた週3億5000万ポンド(約558億円)をNHSのために使うというボリス・ジョンソン元首相ら離脱派の公約はデタラメで、長年の保守党支持者だった英ロック歌手ロッド・スチュワート氏でさえ「プライベート医療はガラガラなのに、NHSではメディカルスキャンも受けられずに死んでいく人がいるのはバカげている」と政権交代を訴えている。

英国は国防費を削減しすぎて今や自分の国すら守ることができないと米軍関係者から注意される始末である。リズ・トラス前英首相の財源なし大型減税策で債務危機に見舞われたばかりの英政府に財政出動の余地は限られている。身の程知らずのEU離脱で無駄な労力を使いすぎた英国をいま塗炭の苦しみが襲っている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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