コラム

英国民はなぜ「英国のオバマ」スナク新首相が嫌い? 党と経済の立て直しには最適だが

2022年10月25日(火)11時18分
リシ・スナク

保守党本部前で手を振るリシ・スナク新党首 Henry Nicholls-Reuters

<スナク氏の保守党党首選出の背景には、ドロドロの党内抗争と深刻な国民の分断が。「ディズニーの王子様」は敗戦処理に終わるか、救世主になれるか>

[ロンドン発]財源なしの大型減税で市場を大混乱させたリズ・トラス英首相の辞任を受けた保守党党首選で24日、同党下院議員の過半数に支持されたリシ・スナク元財務相(42)が無投票で党首(新首相)に指名された。非白人、アジア系、ヒンズー教徒が首相になるのは英国史上初めて。経済政策通のスナク首相の誕生で英国国債金利は落ち着きを見せた。

カリブ海での家族休暇を切り上げて英国に帰国したボリス・ジョンソン前首相はスナク氏に「ジョンソン首相、スナク財務相」の復活を持ちかけたが、スナク氏に拒否され、立候補を見送った。「最もセクシーな下院議員」ことペニー・モーダント下院院内総務は立候補の意志を表明したものの、100人の推薦人を集められず、締め切り2~3分前に撤退した。

スナク氏は党の勝利演説で「英国は素晴らしい国だ。しかし深刻な経済的課題に直面しているのは間違いない。私たちは今、安定と団結を必要としており、私は党と国を一つにすることを最優先にする。それこそが私たちが直面する課題を克服し、子供たちや孫たちのためにより良い、より豊かな未来を築く唯一の方法だからだ」と呼びかけた。

筆者はこの日午後、首相官邸前でスナク氏の首相就任演説を見届けようと待ち構えたが、空振りに終わった。25日午前に行われることになったからだ。拍子抜けした。市場や国民を安心させるためスナク首相が一刻も早く首相官邸前から政権構想を示すと考えていたからだ。しかしスナク氏は国民の安心より、分断する党の融和を優先させた。

「ディズニーランドの王子様」のサクセスストーリー

2016年、欧州連合(EU)国民投票で離脱派に敗れた残留派デービッド・キャメロン首相が辞任。19年、EU離脱交渉を混乱させた責任を取ってテリーザ・メイ首相が辞任。今年9月、ジョンソン首相が保身のウソで墓穴を堀って辞任。10月、トラス首相が市場を混乱させた責任を取って辞任。日本のように首相が猫の目のように変わる背景に党内の深刻な分断がある。

スナク氏は勝利演説の前、保守党下院議員に対し「生活費の危機の中で国民の優先事項を実現することに集中する。保守党は団結するか、それとも滅びるかだ」と釘を刺した。政党支持率で保守党は最大野党・労働党に最大39ポイントのリードを許す。保守党の支持率が14%まで下がるのは初めてのことだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米政権、「第三世界諸国」からの移民を恒久的に停止へ

ビジネス

午後3時のドルは156円前半、日米中銀総裁発言など

ワールド

ハンガリー首相、プーチン氏と会談へ エネ供給とウク

ビジネス

東京海上、クマ侵入による施設の損失・対策費用補償の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story