コラム

史上3人目の英女性首相、見当違いの「減税策」が招くインフレと債務のブラックホール

2022年09月06日(火)18時07分

政府は財政の拡大と縮小のタイミングを常に間違える

「英国のようにゼロ金利制約があり、変動相場制の自国通貨で借り入れを行う国では政府債務を増やしても金利は上昇しないという証拠がそろっている。英中銀・イングランド銀行の政策金利が0.5%に張り付いていた2015年当時は確かにそうだったが、英国の金利はいま上昇に転じ、インフレは約10%で推移している」(ポルテス教授)

「2010年代の緊縮財政は見当違いだった。この10年は政府が超低金利で無制限に借金をすることができた。しかし保守党政権はそうしなかった。英国が著しいインフレ圧力に直面し、世界的に金利が上昇する中、トラス政権は借金を大幅に増やすようだ。政府は財政の拡大あるいは縮小のタイミングを常に間違えてしまうことを証明しようとしている」(同)

EU離脱には自己決定権をブリュッセルから取り戻し、国内製造業を回復させる狙いがあった。しかし人・物・金・サービスの流れを停滞させることが経済にいいわけがない。国際通貨基金(IMF)は来年、英国の経済成長は主要先進国の中で最も低い0.5%に落ち込むと予測する。頼みのテクノロジー企業は英国での上場を敬遠する傾向が目に付き始めた。

EU離脱前は年間生産台数200万台の復活を目指していた英自動車産業だが、ディーゼル車不正、中露と西側の対立によるグローバル化の反転、半導体など主要部品の不足、ウクライナ戦争、電動化で年間76万台まで激減した。今年上半期の生産台数も昨年同期比で19.2%(9万5792台)減という惨状だ。

220906kmr_ctp03.JPG.png

英国の年間自動車生産台数 (出所)英自動車製造販売者協会(SMMT)発表

エネルギー危機への対処は仕方ないとしても、トラス氏が恒久減税を実行に移せば、英国経済は取り返しのつかない致命傷を受けることになる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NZ経済、第3四半期は前期比+1.1% プラス成長

ビジネス

中国リチウム価格1年半ぶり高値、採掘許可取り消しで

ビジネス

マイクロン、12-2月利益見通し予想大幅に上回る 

ワールド

「トランプ口座」に投資家ダリオ氏が寄付、ブラックロ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story