コラム

子供たちが殺されている前でお金の話をしないで...日本企業へ、ウクライナ人の思い

2022年06月11日(土)16時03分

220611kmr_ujc02.jpgユネスコの世界遺産に登録されているリビウ中心部の彫像は保護されている(筆者撮影)

「いまは明日の計画しか立てられません」

バロック様式の教会や石畳の歩道が並ぶリビウの歴史地区群は1998年にユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産に登録されている。街のあちこちの重要な彫像は緩衝材や耐火材で守られていた。イワン・フランコ公園を歩いている時、もはや「日常」化した空襲警報が鳴り響いた。入り口に土嚢が積み上げられた地下壕の周りに何人かが集まってきた。

220611kmr_ujc04.jpgイワン・フランコ公園にある地下壕の入り口(筆者撮影)

大半の市民は何事もないように平然と歩いている。試しに地下壕の中に入ってみると、真っ暗で何も見えなかった。外は摂氏30度を超える暑さなのに、中はひんやりとしていた。トンネルの中で不安そうに言葉を交わす家族もいた。2014年のロシアによるクリミア侵攻からすでに8年が経ち、戦火は一時、首都キーウに迫り、いま戦線は東部に集中している。

220611kmr_ujc03.jpg(筆者撮影)

ドラッチさんに戦争はいつまで続くと思うか尋ねてみた。「そのことについては一切、考えていません。私の態度はシンプルです。戦争は明日終わるかもしれないし、5年後に終わるかもしれない。つまり私には明日の計画があるだけです。欧州をはじめ、みんなが私たちをサポートしてくれています。私たちはみんな戦争に備えるべきなのです」

東部ドネツクからリビウに逃れてきたオクサナさんとアプテムさん母子も「月2000ウクライナ・グリブナ(約9100円)の政府援助も3カ月で切れます。いまは明日の計画しか立てられません」と漏らした。ウクライナへの支援疲れが次第に欧州にも広がり始めている。だからこそ私たちはウクライナの声に耳を傾けるべきだ。

ウクライナ慈善人道基金への寄付は以下のリンクから。
https://palianytsia.com.ua/ja/donate

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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