コラム

仏大統領選を揺さぶる「1千万人」問題と、ルペンを封じる「第三極」の戦術投票

2022年04月22日(金)17時30分

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マクロン氏とルペン氏の選挙ポスター(筆者撮影)

「10人のうち7人が過去5年間で購買力が低下したと感じている」ルペン氏

ルペン氏は討論で、10人のうち7人が過去5年間で購買力が低下したと感じていると唱えた。「国民のポケットにお金を返す」ため、減税などで一世帯当たり月150~200ユーロ(2万~2万8千円)を政府が負担するという。マクロン氏は減税より物価に上限を設ける方が効果的だと述べ、ルペン氏が物価の上限設定に反対票を投じたことを指摘した。

ルペン氏の公約である10%賃上げは「大統領ではなく使用者が決めることだ」とマクロン氏は一蹴した。年金問題でも受給年齢を段階的に65歳に引き上げるマクロン氏は、60~62歳にとどめるルペン氏案を「実現不可能」と切り捨てた。ルペン氏は「(イスラム女性が髪を覆う)ヒジャブはイスラム主義者が押し付けた制服で、公の場では禁止すべきだ」と述べた。

世論調査会社Elabeの討論後調査では、59%がマクロン氏の方が説得力があったと感じたのに対し、ルペン氏は39%だった。メランション支持者では、マクロン氏の方が説得力があったと判断した人は61%、ルペン氏は36%だった。ピッカーさんは「戦争や危機は現職有利に働く。ウクライナ戦争は明らかにマクロン氏にプラスに働いている」と分析する。

そうしてメランション陣営の戦略を打ち明けた。「第1回投票でメランション氏に票を入れた人の35%は棄権、35%は白票を投じ、残り30%がマクロンに投票する」。メランション陣営の戦術投票で、マクロン氏はルペン氏の猛追をかわせるのかもしれない。しかし脱工業化という産業構造の転換がもたらした傷は癒えるどころか、確実に深まっている。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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