コラム

仏大統領選を揺さぶる「1千万人」問題と、ルペンを封じる「第三極」の戦術投票

2022年04月22日(金)17時30分

テレビ討論会に臨んだマクロンとルペン(4月20日) Christian Hartmann-REUTERS

<4月24日に行われるフランス大統領選の決選投票で、勝つのはマクロンかルペンか。第1回投票で敗れたメランションらの支持者はどう動くか>

[フランス北部ルーベ発]「昨晩のマクロンとルペンのTV討論は見なかったよ」――ベルギー国境に近いフランス北部ルーベでレストランを経営するピエール・ピッカーさん(63)はこう言葉を投げ捨てた。仏大統領選決選投票を4日後に控え、20日に現職のエマニュエル・マクロン大統領と極右・国民連合のマリーヌ・ルペン氏のTV討論が行われた。

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ピエール・ピッカーさん(21日、ルーベで筆者撮影)

ランチタイム後の休憩時間に仲間3人と昼食をとりながら、ピッカーさんは「マクロンが大統領の5年間にフランスの貧困層は100万人増え1千万人になった。逆に金持ちはさらに金持ちになった。彼は富裕層のためだけの大統領なのさ。しかし人種差別主義者のルペンにも絶対に投票しない」と語る。コロナ危機では「1千万人」という数字が取り沙汰された。

ピッカーさんは強硬左派「不服従のフランス」のジャンリュック・メランション氏陣営の地区責任者を務める。仲間3人もメランション氏の支持者だ。第1回投票の結果、フランス全土でマクロン氏28%、ルペン氏23%、メランション氏は22%を集めた。ルーベではメランション氏が53%とマクロン氏20%、ルペン氏15%を大きく引き離した。

ルーベは第一次大戦で西部戦線の戦場だった。ドイツに占領され、飢餓や強制労働に苦しんだ。人口は2019年時点で約9万9千人。19世紀に繊維産業で急成長した旧ニュータウンで、最盛期に人口は約12万5千人に達した。しかし1970年代に主要産業が衰退し、脱産業化に伴う多くの困難に直面する。現在、失業率は30%と高止まりしている。

「今年、購買力は0.6%縮小する」仏銀大手

仏国立統計経済研究所(INSEE)によると、昨年第4四半期の失業率はフランス全体で前期の8%から7.4%に低下し、世界金融危機に見舞われた2008年以来の低水準になった。ブルーノ・ルメール仏経済・財務相は「あきらめと宿命論に対する偉大な勝利。マクロン氏と一緒に労働市場を改革し、実習生を支援し、減税と税制の見直しを行った」と胸を張った。

しかしコロナ復興による需給逼迫、エネルギー価格の高騰にウクライナ戦争が拍車をかける。有権者最大の関心事は可処分所得にインフレ率を加味した購買力だ。仏銀行大手BNPパリバによると、フランスのインフレ率は今年の多くの期間、1989年以来初めて3%を突破すると予測される。このため昨年、1.1%増えた購買力は今年、0.6%縮小する見通しだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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