コラム

「私の主人はプーチンではなくルーブルだ」 プーチンと対立したロシア元石油王の闘争

2022年04月07日(木)17時52分

03年、ホドルコフスキー氏は石油会社シブネフチを買収してユコスと合併し、世界最大級の石油メジャーを設立する計画をぶち上げた。これがプーチン氏の逆鱗に触れ、同年末にホドルコフスキー氏は詐欺と脱税の疑いで逮捕された。「悪いオリガルヒの象徴」とされ、05年に禁錮9年でシベリア送りになった。結局、13年末に母親の体調不良を理由に釈放された。

ホドルコフスキー氏は共産党青年組織コムソモールで頭角を現し、ゴルバチョフ時代の民営化に乗じてソ連崩壊後のロシアで初の民間銀行をおこすなどさまざまな起業を手掛けた。1995年に約3億5千万ドルで買収したのがロシア第2の石油会社ユコスだった。150億ドル以上の資産を作ったホドルコフスキー氏はエリツィン氏の資金源の1人になった。

「冷酷なオリガルヒから自由の闘士に変わった」

カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスの『共産党宣言』と革命家ウラジーミル・レーニンに別れを告げたホドルコフスキー氏はただのカネの亡者ではない。英誌エコノミストは「彼が守っているのは失われつつあるビジネスではなく、人権なのだ。無法地帯の中で冷酷なオリガルヒから自由の闘士へと変貌を遂げた」(2010年4月)と称賛した。

筆者がホドルコフスキー氏と握手したのは15年2月、英シンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)で開かれた討論会後のレセプションだった。「プーチン氏にとって新しい世界秩序の国境はどこなのか」と尋ねると「彼が欲しいのはウクライナ東部にとどまらない。旧ソ連諸国なのか、旧ソ連圏諸国を含むのか、彼の真意は分からない」と答えた。

220407kmr_rmp02.jpg

筆者の質問に応じるホドルコフスキー氏(2015年2月、筆者撮影)

今回、ロシア軍の死者が7千~1万5千人も出ていると推定されていることについて、ホドルコフスキー氏はZOOMを通じて「ロシアにおける人権の価値は他国ほど高くはない。ウクライナ侵攻で犠牲になったロシア兵は北コーカサスや小さな村からかき集められた若者だ。プーチンはカネをばらまいて口を封じている。しかしそれも長くは続かない」と話した。

「いくらプーチンといえども20万人の徴兵や予備役を戦場に送るのは政治的に非常な困難を伴う。100万人を集めることもできるだろうが、都市がまるごと棺桶に入るような大きな犠牲は2024年に大統領選を控えるプーチンにとって深刻な問題になる。世論調査の支持率が80%を超えているのは、そうした人たちだけが調査に答えているからだ」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

コロンビア政府への軍事作戦は良い考え=トランプ氏

ワールド

スターマー英首相、短期政権交代は「国益に反する」と

ワールド

ミャンマー総選挙、第1回は国軍系USDPがリード 

ワールド

ウクライナ、年初から連日モスクワ攻撃とロ国防省 首
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...強さを解放する鍵は「緊張」にあった
  • 2
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    2026年の節目に問う 「めぐみの母がうらやましい」── …
  • 5
    ベネズエラ攻撃、独裁者拘束、同国を「運営」表明...…
  • 6
    野菜売り場は「必ず入り口付近」のスーパーマーケッ…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「対テロ」を掲げて「政権転覆」へ?――トランプ介入…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 10
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story