コラム

コロナ規制の最中も続いた英首相官邸の「飲み文化」

2022年01月15日(土)22時13分
ジョンソン英首相

与党・保守党内からも辞任を求める声が挙がっているジョンソン首相 Paul Childs-REUTERS

<スーツケース持参のスタッフがスーパーでビールやワインを大量購入。「政界の道化師」と呼ばれ嘘とハッタリでのし上がってきたジョンソン首相の「終わり」は近い>

[ロンドン発]ウソにウソを塗り重ねてきたボリス・ジョンソン英首相の「終わり」が近づいてきた。イギリスのコロナ死者は欧州最悪の17万4千人超を数え、現在も1日に400人近い死者を出す。その深淵には市民には厳格なロックダウン(都市封鎖)を強いながら自分たちはパーティーを続ける首相官邸や官庁街の「飲み文化」があった。

ジョンソン首相は今月12日、下院で、ロックダウン下の2020年5月20日に首相官邸で開かれた飲み会について自身も参加していたことを初めて認め、「謝罪したい。私たちが正しい行動を取れなかったことを十分に認識している。責任を取らなければならない」と神妙な顔つきで述べた。

「首相官邸はオフィスの延長線上に庭園があり、新鮮な空気がウイルスを食い止める役割を果たすため常に使用されている。その日の午後6時すぎ、庭園に行ってスタッフのグループにお礼を言い、25分後にオフィスに戻って仕事を続けた。仕事上のイベントだと暗黙のうちに信じていた」

「今になって思えば、みんなを家に帰すべきだった。他の方法で感謝の気持ちを伝えるべきだった。テクニカルにはガイドラインに沿っていると言えたとしても、何百万人もの人々がそのようには受け止めないことを認識すべきだった。ひどく苦しんだ人々、愛する人と会うことを一切禁じられた人たち......。彼らとこの下院に心からの謝罪する」

政党支持率で最大野党・労働党が最大14ポイントのリード

ジョンソン首相には、法律には違反していない、近く公表される内部調査の結果で違反がなかったことが裏付けられれば自らの政治生命は保たれる、倫理的な責任を認めて謝罪したことで一連の「飲み会疑惑」を逃げ切れるとの計算があった。実際、ジョンソン首相は閣僚の支持を取り付け、保守党内の造反組に対して巻き返しの態勢を整えていた。

しかしジョンソン首相は世論調査の政党支持率で最大野党・労働党に最大14ポイントのリードを許しており、今年5月の統一地方選での惨敗が確実視される。2024年5月に予定される次期総選挙でも苦戦が予想され、有権者の信頼を失ったジョンソン首相では選挙は戦えないと保守党内では党首(首相)交代を求める声が広がり始めている。

英大衆紙デーリー・メールはダウニング街(首相官邸、財務相官邸などがある長さ約200メートルの通り)で毎週金曜日に「ワインタイム・フライデー」が開催され、スタッフがアルコール飲料を入れるスーツケースを引っ張ってスーパーに行き、2020年12月にビール、ワイン、プロセッコを冷やす冷蔵庫を届けてもらっていたとスクープした。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン、イスラエルとの停戦交渉拒否 仲介国に表明=

ワールド

G7、中東情勢が最重要議題に 緊張緩和求める共同声

ワールド

トランプ氏、イスラエルのハメネイ師殺害計画を却下=

ワールド

イスラエル・イランの衝突激化、市民に死傷者 紛争拡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 9
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story