コラム

美人補佐官とダブル不倫キスの英保健相が辞任 葬式でも距離守った遺族が激怒

2021年06月28日(月)06時10分

そのカミングズ氏は今年5月、英下院科学技術、保健ソーシャルケア合同委員会の喚問で「ハンコック氏は公の場で何度もウソをつき、少なくとも15、20の理由で解雇されるべきだった。国家が期待する基準をはるかに下回り、悲惨な結果をもたらしたことに疑いの余地はない。私は首相に、多くの人を死なせる大惨事になる前に彼を解雇すべきだと繰り返した」と暴露した。

コロナに関して最初の非常事態対策(コブラ)会議が開かれたのは昨年1月24日。1時間の会議を終えたハンコック氏はさわやかな表情で「英国民へのリスクは低い」と言ってのけた。ジョンソン首相は欧州連合(EU)離脱と洪水対策、内閣改造、婚約者とのホリデーに忙しく、第1~5回目のコブラ会議をすっぽかした。首相が初めて議長を務めたのは3月2日になってからだ。これで40日近くが無駄にされた。

ロックダウンの具体的プランはなかった。マスクやガウン、手袋、フェイスシールドなどの感染防護具は不足していた。国民保健サービス(NHS)のスタッフ5万2千人がコロナに感染して発症し、昨年だけで850人を超える医療従事者が命を落とした。感染の広がりを正確につかむためのPCR検査の能力も十分とは言えず、接触追跡アプリもなかった。コロナ患者用に病院の空きベッドを確保するため、コロナ感染の有無も確かめずに高齢者を介護施設に送り返した結果、介護施設での犠牲が超過死亡の半数以上を占めるという惨事を招いた。

遺族の会「私たちは葬式でハグして慰め合うこともできなかった」

「正義を求めるコロナ遺族の会」のハンナ・ブレイディさんは父親のショーンさん(当時55歳)を昨年の第1波で亡くした。父親の遺体は有害廃棄物用ゴミ袋に詰められ、雨の中、埋葬された。ハンナさんら10人の参列者は政府のガイドラインに従って2メートルの距離を守らなければならなかった。ハンナさんは「私たちは葬式でハグして慰め合うこともできなかったのに、ハンコック氏ときたら、国民を守るべき保健省でルールを破っていたとは」と怒りを爆発させた。

ジョンソン首相はカミングズ氏へのテキストメッセージでハンコック氏のことを「絶望的」と表現していた。ハンナさんは抱擁写真のスクープを受けてジョンソン首相に書簡を送り、「ハンコック氏を続投させることは遺族や政府のルールを守っている人たちへの侮辱であるばかりか、コロナ対策への社会の信頼を損ねる。彼は政府の恥辱だ」とハンコック氏の更迭を求めていた。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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