コラム

ドイツ総選挙 極右政党「ドイツのための選択肢」94議席の衝撃 問われる欧州の結束

2017年09月26日(火)14時00分

難民受け入れを厳しくしても「負けた」メルケル Christian Mang-REUTERS

[ベルリン発]ドイツのアンゲラ・メルケル首相が4選を決めた9月24日の連邦議会(下院)選挙で、反イスラム・難民、反ユーロ(欧州単一通貨)を叫ぶ極右政党「ドイツのための選択肢」の得票率は12.6%に達し、94議席を獲得する予想外の展開となった。

極右勢力の台頭

ナチスのホロコースト(ユダヤ人大虐殺)のトラウマが残るドイツで右派が連邦議会に進出するのは初めて。その数の多さに衝撃を覚えない人はいないだろう。

kimura20170926102001.jpg
選挙から一夜明けた記者会見で複雑な表情のメルケル Masato Kimura

前回2013年と比較してみると、極右の「選択肢」と、市場原理にこだわる自由民主党(FDP)が拡大した分、メルケルの支持母体であるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)と社会民主党(SPD)の中道が勢力を失ったことが分かる。

kimura20170926102002.jpg

100万人を超える難民が欧州連合(EU)域内になだれ込んだ2015年の欧州難民危機で「門戸開放」を唱えたメルケルは、「選択肢」台頭と、CDU・CSU党内や旧東欧諸国のハンガリー、ポーランドから激しい批判を受け、Uターン。EU・トルコ合意で境界管理を厳重化するとともに、難民認定のハードルを高く引き上げた。

シリア・イラク以外の国を安全国とみなし原則、難民申請は認めない。シリア・イラク難民の滞在許可も3年ごとに見直す。犯罪に関わった難民申請者の送還を容易にしたことで、難民問題をめぐるメルケル批判は一段落したかに見えた。

さらに過激化した「選択肢」

「選択肢」は路線対立から支持率が一時6.5%に急落。しかし最終盤になって息を吹き返した。過激化する党の軌道修正を図ろうとして主導権を失ったフラウケ・ペトリ共同党首は選挙翌日、突然、離党を発表した。

kimura20170926102003.jpg
過激化に反対して離党した極右の共同党首ペトリ Masato Kimura

ユーロ圏支援に反対する自民党も票を伸ばしていることからユーロ圏の財政統合への反対と見ることもできるが、やはりドイツ国内に滞留する大量の難民への懸念が底流にある。

難民認定されず、絶望から逃れるため薬物に走り、代金稼ぎに「男娼」になる10代の難民も少なくない。代金は1回20~30ユーロ。5ユーロという話さえある。

「難民の待遇は出身国によっても、受け入れた州によっても異なる。旧東ドイツなら厳しい。その点、僕はホストファミリーにも恵まれ、とても幸せだった」。ベルリンの法律家養成学校で事務仕事をするシリア出身のサーエル・オーファリ(28)は語る。

kimura20170926102004.jpg
シリア難民のサーエル・オーファリ Masato Kimura

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EUと南アが重要鉱物に関する協力協定、多国間主義維

ビジネス

BNPパリバ、中核的自己資本比率目標引き上げ 27

ビジネス

米アボット、がん検査エグザクトサイエンスを230億

ワールド

中国、仏製戦闘機ラファールの販売妨害で偽情報作戦=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 7
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 8
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 9
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story