コラム

トランプ氏が英国独立党党首ファラージを駐米大使に指名?──漂流する米英「特別関係」 

2016年11月24日(木)20時00分

 トランプ氏は選挙期間中、民主党候補のヒラリー・クリントン氏(69)について「米国務長官時代の私用メール問題で刑務所にぶち込んでやる」とののしり続けたが、当選後は発言を取り下げ、一気にトーンダウンさせるなど、安全運転に徹している。

 そんな中でファラージ氏を駐米英国大使に逆指名したわけだから、トランプ氏は選挙期間中のファラージ氏の応援とアドバイスに心から感謝しているようだ。それとも「イスラム教徒の米国入国禁止」のトランプ発言を、メイ首相(当時は内相)が「人々を分断するもので、助けにならないし、間違っている」と批判したことに対する当てこすりだろうか。

 完全に面目を失ったのは現在のキム・ダロック駐米英国大使だ。親EU派だったことで、UKIPのファラージ氏だけでなく与党・保守党の離脱派からも疎んじられ、トランプ氏からは無視された。次期米大統領との懇談もファラージ氏とUKIP関係者に先を越された。これでは何のための駐米英国大使か分からない。

 メイ首相とトランプ氏の会談をできるだけ早くセットし、トランプ氏の国賓としての訪英を実現できなければダロック駐米英国大使の更迭はまず避けられないだろう。「ファラージ大使」は考えられないシナリオだが、第二次大戦を勝利に導いた英国と米国の「特別関係」は見る影もなくなった。EU離脱決定で内向き、後ろ向き傾向が強まった英国の存在感は一気に薄れている。

イギリスで今いちばんうけるジョークは

 欧州ではEUの大黒柱、ドイツのメルケル首相が来年秋の独総選挙で4期目を目指す考えを表明した。ベルリンの壁崩壊と東西ドイツ統一の価値を信じるメルケル首相と「アメリカニズム(米国第一主義)」を掲げるトランプ氏の間には早くも秋風が吹く。フランスでも来年春の大統領選に向け、最大野党の共和党など中道・右派陣営の候補者を選ぶ予備選の第1回投票が行われ、サルコジ前大統領が敗退、フィヨン元首相とジュペ元首相が決選投票に進んだ。

 今、英国で最もうけるブラックジョークは、来年の仏大統領選で極右政党・国民戦線のマリーヌ・ルペン党首(48)が勝利して大統領になればEUが先に崩壊して、英国はEUから離脱する手間が省けるというものだ。

 今のところフィヨン氏とジュペ氏のどちらが中道・右派陣営の候補者になっても、世論調査ではルペン党首には勝利すると出ている。しかし「予測不能」「不確実性」がキーワードになったこのご時勢、何が起きても不思議ではないことは英国のEU国民投票と米大統領で証明済みだ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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