コラム

独りぼっちの五輪 ドーピング疑惑のロシア陸上界からリオ五輪に出場した「美しすぎるジャンパー」

2016年10月28日(金)14時50分

リオ五輪で戦うクリシナ Dylan Martinez-REUTERS

<ロシアの陸上選手でただ1人、リオ五輪に出場を許された女子走り幅跳びのダリア・クリシナにプライベートで話を聞いた>

 国ぐるみのドーピング疑惑で最も汚染していたロシア陸上界はリオデジャネイロ五輪から締め出されました。陸上、重量挙げの2種目は全面排除、水泳、自転車、レスリングなど7種目についても一部選手の参加資格が取り消されました。

 ロシア陸上界から唯一人、リオ五輪への出場を果たしたアスリートがいます。女子走り幅跳びのダリア・クリシナさん、25歳。

 クリシナさんの出場が認められたのは、女子走り幅跳び予選が行われる前日の8月15日でした。スポーツ仲裁裁判所(CAS)は、リオ五輪への参加資格を取り消した国際陸連の決定を不服としたクリシナさんの訴えを認め、出場を容認する裁定を下しました。

 国際陸連はロシア陸上チームのリオ五輪参加を禁じる一方で、クリシナさんの個人資格での参加は認めていましたが、13日に「ドーピングに関する新たな情報を入手した」として特例措置を取り下げるなど、事態は五輪出場が実現するまで二転三転しました。

 クリシナさんがソーシャルメディアで、個人資格での参加を認めた特例措置について国際陸連とサポーターに感謝の気持ちを綴ったところ、ロシア国内から激しいバッシングを受けました。「裏切り者」「恥さらし」。ロシアの代表選手を排除した国際陸連に感謝するとは何事だという批判でした。

【参考記事】ロシア陸上界から五輪出場を認められたクリシナに「裏切り者」とバッシングの嵐

 クリシナさんは激流の中で何を考えていたのでしょう。来春から新聞記者として働くことになった笹山大志くん(筆者が主宰するつぶやいたろうラボ4期生)は現在、米ニューヨークで英語の勉強をしていますが、語学学校のクラスメートが偶然にもクリシナさんだったのです。大志くんがクリシナさんを直撃します。

               *****


[ニューヨーク=笹山大志]「それはルール違反よ」。授業中のゲームで他の生徒が携帯を使おうとしていた時、彼女はすかさず声を上げる。ゲームで負ければ「何でこれが正解と認められないの」と先生に迫る。

 ゲームが始まれば攻撃的な態度に豹変する彼女を周りの生徒は敬遠した。「たかが授業内のゲームなのに、何でそんなにムキになる必要があるのか」

 その彼女が今回のリオ五輪でロシア陸上界から唯一出場できた女子走り幅跳びのダリア・クリシナ選手とはまったく気づかなかった。留学先のニューヨークの語学学校で知り合ってから2週間経った頃、世界中から注目を浴びた女性ジャンパーだと初めて分かった。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

焦点:闇に隠れるパイロットの精神疾患、操縦免許剥奪

ビジネス

ソフトバンクG、米デジタルインフラ投資企業「デジタ

ビジネス

ネットフリックスのワーナー買収、ハリウッドの労組が

ワールド

米、B型肝炎ワクチンの出生時接種推奨を撤回 ケネデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story