コラム

密航拠点の難民キャンプ「ジャングル」を撤去しても根本問題は解決しない

2016年10月27日(木)15時38分

 英国に家族がいる難民孤児500人の受け入れをオランド大統領から求められた英国のメイ首相は200人を引き受けた。英国のEU離脱交渉の難航が予想される中、英仏両政府が罵り合いを避け、協力したのは大きな前進だ。

 ジャングルではレイプや暴力、人身売買を防ぐため、男性と女性・子供の区画は分けられていた。支援団体「難民の権利データ・プロジェクト」が16年3月に行った調査によると、回答者の76%が警官の暴力を経験、70%が警官隊による催涙ガスの洗礼を受けていた。子供の61%は一度も安全と感じたことはないと答えた。

難民認定の保証はない

 英国が国境管理をカレー側に移してから難民申請件数は年間8万件から3万件に減った。EU離脱でフランスが国境管理をドーバー側に突き返せば難民は再び跳ね上がる恐れがある。英国への渡航が容易になると磁力のように難民をカレーに吸い寄せるからだ。

 ジャングルが17年仏大統領選のスケープゴートにされる最悪の事態は回避されたが、フランス各地に運ばれた難民の申請が認められる保証は何一つない。02年にも、ジャングル西側にあったサンガット難民キャンプが撤去されたことがある。英仏両国が協力して難民受け入れに取り組まない限り、新たなジャングルが出現するのは必至だろう。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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