コラム

金正男暗殺で、また注目される「女性工作員」

2017年02月22日(水)16時00分

金賢姫(キム・ヒョンヒ)元工作員 2009年 Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<金正男がマレーシアのクアラルンプール空港で暗殺され、実行犯が女性だったことで、北朝鮮の「元女性工作員」に関心が向けられている>

日韓のメディアでは今、北朝鮮の「元女性工作員」に関心が向けられている。

北朝鮮のトップ金正恩の兄で故金正日総書記の長男とされる金正男がマレーシアのクアラルンプール空港で暗殺され、その実行犯が女性だったからだ。

日韓のメディアが取材対象としてまず目をつけたのは、1987年にあった大韓航空機爆破事件の実行犯・金賢姫(キム・ヒョンヒ)だ。

さらにもう一人注目された人物がいる。

北朝鮮から韓国に派遣された工作員として2008年に逮捕され、13年に釈放された元正花(ウォン・ジョンファ)である。

jonnfa.jpg

マッチングサイトに使われた元正花のプロフィール写真

金賢姫は今回の事件当初、毎日新聞の取材に対し、「実行犯の女性2人はすぐに逮捕されたため」「厳しい訓練を受けた工作員とはとても思えない」「東南アジア女性を雇った請負殺人」ではないかという見方を示した。

一方の元正花は韓国日刊紙の取材に対し、「(実行犯の女性に)100万ドルは先払いしただろう」「暗殺方法はスプレーではなく、毒針だろう」「自らも毒針に刺される訓練を受けたことがある」などと話した。

金賢姫と元正花の話をよく比べてみてほしい。金は現場の状況を見ながら北朝鮮での経験と合わせて分析しているのに対し、元の話はあくまで推測にすぎない。100万ドルという金額もあまりに突拍子もない。

実は元正花については、かねてから韓国内で疑問が指摘されて来た。

2008年の逮捕当時、韓国の捜査当局が発表した内容によると元正花は、労働党傘下の青年団体からの推薦で金星政治軍事大学に入り、特殊部隊訓練を受けた。その後、デパートに就職するが菓子などを盗み2年間服役し、釈放後にさらに亜鉛を盗み逮捕。中国に逃亡し、そこで韓国での工作活動および元労働党書記である黄長燁の暗殺の指令を北朝鮮保衛部から受けた。韓国ではマッチングサイトを通じて、韓国軍将校たちと関係を持っては、軍の秘密情報を北にEメールで送っていたとされた。

しかし当時、軍部出身の脱北者のなかでは、彼女の経歴に疑問を持つ者が少なくなかった。

プロフィール

金香清(キム・ヒャンチョン)

国際ニュース誌「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「Tesoro」(発行・ソウル新聞社)副編集長を経て、現在はコラムニスト、翻訳家として活動。訳書に『後継者 金正恩』(講談社)がある。新著『朴槿恵 心を操られた大統領 』(文藝春秋社)が発売中。青瓦台スキャンダルの全貌を綴った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

バイデン大統領、31万人に学生ローン免除 美術学校

ワールド

米名門UCLAでパレスチナ支持派と親イスラエル派衝

ビジネス

英シェル、中国の電力市場から撤退 高収益事業に注力

ワールド

中国大型連休、根強い節約志向 初日は移動急増
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 8

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    「誰かが嘘をついている」――米メディアは大谷翔平の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story