コラム

金利上昇の懸念とコロナからの回復で、なぜ「賃貸住宅派」のリスクが高まるのか?

2023年03月31日(金)11時21分
日本のマンション(イメージ画像)

Y-STUDIO/ISTOCK

<住宅価格の高騰や金利上昇の懸念などで「持ち家」より「賃貸」を選ぶ人が増えると思われるが、落とし穴はないのか...>

かつてない水準で進むインフレとそれに伴う金利上昇懸念から、住宅市場が変化する可能性が出てきた。

「持ち家信仰」が強い日本では、税制など各種政策も住宅の購入が大前提となっており、ファミリー層が居住できる賃貸物件は少ない。住宅価格がここまで高騰すると賃貸へのニーズは高まらざるを得ないが、供給は不十分な状況が続くので、このままでは家賃上昇リスクを招く可能性がある。

首都圏の新築マンション平均価格は上昇が続いており、既に6000万円を突破している。これまでは低金利が続いてきたことから、価格が上がっても何とかローンを組むことができた。だが、日銀総裁の交代で金利が引き上げられる可能性が高まっており、住宅ローンの支払額も増えると予想される。

マンション価格の上昇が単なる不動産バブルであれば、金利の引き上げは価格下落につながる。だがマンション価格は過去20年、一貫して上昇が続いており、その主な要因は資材価格の高騰なので、金利が上がっても販売数量が減るだけで、劇的な価格下落は発生しない。

このままインフレが進み、金利が上昇した場合、マンション価格は下がらず、住宅ローン負担だけが増加するという事態も十分にあり得る状況だ。ここまで来るともはやマイホーム取得には経済合理性がなくなり、一生賃貸のほうがよいと考える人も増えてくるだろう。

「持ち家信仰」が崩れるのは自然な流れ

持ち家か賃貸かという選択は、世帯のライフスタイルによって異なるので、いわゆる「持ち家信仰」が崩れること自体は自然な流れといってよいかもしれない。だが、日本の住宅政策は持ち家を大前提としており、今の政策を漫然と続けていると、大きな問題が発生する可能性がある。

コロナ禍によって一時、鈍化したかに見えたものの、地方から首都圏への転入が増えており、都市部の人口集中が再び進み始めている。リモートワークの進展で地方移住が進んでいるというニュースをよく目にするが、こうした移住ができるのはごく一部のエリート層のみであり、多くの労働者は何らかの形でオフィスや現場への出勤が求められる。

加えて人口が減少すると、商圏が維持できなくなる地域が増えるため、何もしなければ都市部の人口集中が進むというのが市場の摂理である。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

23─24年度のインド原油輸入、2億3250万トン

ワールド

欧州委、数日内にドイツを提訴へ ガス代金の賦課金巡

ワールド

日米との関係強化は「主権国家の選択」、フィリピンが

ビジネス

韓国ウォン上昇、当局者が過度な変動けん制
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 3

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 4

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 5

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 6

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 7

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 8

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    対イラン報復、イスラエルに3つの選択肢──核施設攻撃…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story