コラム

日本には独自の不確定要因も...2023年の世界・日本経済、「3つのシナリオ」

2023年01月05日(木)17時51分
2023年の経済予測イメージ画像

ALEXSL/ISTOCK

<インフレ、金利の引き上げ、そして景気後退リスクという薄氷の2023年に、世界経済と日本経済はどこへ向かうのか?>

筆者は1年前、本コラムで2022年の経済予想を行った。そこでは、各国で発生しているインフレは一時的なものではなく、金利と物価が予想以上に上がる可能性があること、日本については量的緩和策をやめられない状況にあり、円安リスクが高くなっていることについて触れた。22年の経済はほぼ筆者の予想どおりの展開となったが、23年は一連の問題がヤマ場を迎える年になると予想される。

米バイデン政権は過度に進んだインフレの抑制を最優先課題としており、アメリカの中央銀行に相当するFRB(連邦準備理事会)は、金利の引き上げを急ピッチで進めてきた。景気や株価に配慮して、22年12月のFOMC(連邦公開市場委員会)では利上げ幅こそ縮小したものの、ジェローム・パウエル議長は最終的な金利の到達点について依然として高い水準を示唆しており、高金利政策に変化はない。

程度の問題はともかく、インフレ抑制を狙った金利の引き上げで、世界経済はリセッション(景気後退)に陥る可能性が高まっている。金利の上昇と景気をうまくバランスできれば、何とか現状を維持できる可能性もある(シナリオ1)が、これは針の穴に糸を通すような作業であり、そう簡単にはいかないだろう。

金利を予定どおり引き上げれば、インフレは抑制されるものの、世界経済は景気後退に直面することになり、これまでとは打って変わって、不況対策が焦点となる(シナリオ2)。また、仮にFRBが市場からの要請を受け入れ、金利の引き上げを緩和した場合、景気後退は回避できるかもしれないが、インフレの問題がさらに深刻化する可能性が高い(シナリオ3)。

インフレが止まらなくなり、最後は極めて高い水準の金利引き上げを余儀なくされた1970年代のアメリカ経済が再来する可能性もゼロではないだろう。いずれにせよ経済が軟着陸できる可能性は低く、景気後退もしくはインフレの進行について引き続き、警戒が必要である。

日本の大きな不確定要因

日本経済もアメリカに連動するので基本的な見立ては同じだが、日本の場合、日銀の金融政策という大きな不確定要因がある。現在、総裁を務める黒田東彦氏の任期は4月に切れる。黒田氏の後任となる新総裁が、金融政策の変更を打ち出した場合、日本経済には極めて大きな変化がもたらされる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英インフレ率目標の維持、労働市場の緩みが鍵=ハスケ

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story