コラム

円安による「ドル不足」は、もはや日本が「経済大国」ではなくなった証拠だ

2022年10月12日(水)17時52分
逃げるドル

ILLUSTRATION BY ERHUI1979/ISTOCK

<円安が引き起こす弊害は物価上昇だけではない。経済大国だった時には直面することがなかった「ドル不足」も、現在では十分あり得る問題に>

為替市場で円安・ドル高が続いていることから、ドル資金が急ピッチでアメリカに戻っている。日本国内では、円安による物価上昇の影響について議論されているが、円安がもたらす弊害はそれだけではない。このまま円安が継続した場合、ドル不足という問題が顕在化する可能性があり、十分な注意が必要だ。

今回の円安の背景にあるのは、言うまでもなく日米の金融政策の違いである。アメリカは量的緩和策からの撤退を進めており、金利を引き上げると同時に、中央銀行が持つ国債を売却して市中から資金を回収する「量的引き締め」をスタートしている。一方、日銀は依然として大規模な緩和策を継続中であり、ゼロ金利政策が続く。アメリカの金利は高く、日本の金利はゼロなので基本的に為替は円安に進みやすい。

両国の金融政策の違いは、ドルが市場から消え、円が市場に大量供給される状態と言い換えられる。予定されたペースで米中央銀行による資産売却が進めば、2年間で約2兆ドルものドル資金が市場から消滅し、市場はドル不足に陥る可能性が高い。とりわけ日本円は最弱通貨となっており、過去にないペースで円安が進んでいる。このままでは、日本でも深刻なドル不足が発生する可能性がある。

では、円安の進展によってドル不足になるというのは、どのようなメカニズムなのだろうか。日本は原材料を輸入し、それを加工して輸出するという典型的な加工貿易の国である。近年は輸出競争力の低下によって、高付加価値な工業製品についても輸入に頼るようになっており、食料やエネルギーのみならずスマートフォンやパソコン、家電も多くが外国製である。

かつての日本は輸出で十分なドルを獲得

日本は基軸通貨国ではなく、原材料や製品を輸入するには、大量の外貨(ドル)を用意しなければならない。かつての日本であれば、工業製品の輸出で獲得したドルを、そのまま輸入に充当すれば十分に事足りた。また、全世界的にドルが流通していたので、邦銀は米銀から安い金利でドルを調達することが可能だった。

だが状況は大きく変わりつつある。今の日本はかつてほど輸出を行っておらず、貿易だけでは十分な外貨を獲得できない。アメリカの利上げで大量のドル資金がアメリカに戻り、世界的にドル不足が深刻化。米銀は以前のようにはドル融資に応じなくなった。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story