コラム

GDP1.3%成長は喜べない、「数字のトリック」が意味する労働者に「厳しすぎる」現実

2022年03月01日(火)19時32分
商品

KIYOSHI OTAーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

<実質GDPが1.3%成長という結果は一見すると良さそうだが、実際には企業収益と賃金を「犠牲」にして成り立っている数字だ>

内閣府が発表した2021年10~12月期のGDP速報値は、物価の影響を考慮した実質で前期比プラス1.3%、年率換算ではプラス5.4%となった。緊急事態宣言と重なった7~9月期は0.7%減だったので、マイナス分を取り返したように見える。だが、内容を細かく見ると、単純には喜べない厳しい現実が浮かび上がる。

GDP成長率には名目と実質の2種類がある。名目値は得られたデータそのままであり、実質値は物価の影響を排除した数値である。プラス1.3%という比較的良好な結果が得られたのは実質値のほうだが、より生活実感に近い名目値は0.5%のプラスでしかなかった。実質成長率は名目成長率から物価上昇分を差し引いたもので、通常は名目値のほうが実質値よりも高くなる。

だが、GDPで使用する物価指標「GDPデフレーター」がマイナスになると、名目と実質が逆転し、実質値が生活実感より良くなることがある。今回はまさにそのケースに該当したと考えていい。

GDPデフレーターがマイナスになった最大の要因は輸入価格の大幅な上昇である。企業が輸入価格の上昇を製品価格に転嫁できていれば、デフレーターも上昇するので、両者は相殺されていたはずだ。

しわ寄せで減益と賃下げが同時進行か

全体のデフレーターが下落したということは、企業が物価上昇を製品価格に転嫁できなかったことを意味している。輸入物価の上昇を製品価格に転嫁できない場合、そのしわ寄せとして企業は利益(マクロ経済の用語では付加価値)を減らすか、労働者の賃金(同じく雇用者報酬)を減らさなければ収支が合わなくなる。現実には減益と賃下げが同時並行で進んでいる可能性が高い。

21年の年末時点における消費者物価指数上昇率と、企業の仕入れに相当する企業物価指数上昇率の乖離は歴史的な水準となっており、輸入物価の上昇を今後も価格転嫁できない場合、企業は減益を余儀なくされる。年明け以降、価格に転嫁するのか、利益を減らすのか、あるいは賃金を減らすのかという選択を迫られている可能性が高い。この事態に対して企業がどう行動したのかは、1~3月期のGDPデフレーターを見ればハッキリするだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

米航空会社、北東部の暴風雪警報で1000便超欠航

ワールド

ゼレンスキー氏は「私が承認するまで何もできない」=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story