コラム

終身雇用の限界は近い 日本型雇用を崩壊させる厄介な現実とは?

2019年11月08日(金)19時49分

トヨタはこれまでも中途採用を積極的に行ってきた DENIS BALIBOUSEーREUTERS

トヨタ自動車が、中長期的には総合職の採用の半数を中途にする方針を固めた。豊田章男社長は今年5月に「終身雇用の維持は難しい」と発言しており、同社が日本型雇用の見直しに乗り出しているのは間違いない。トヨタ以外にも、好業績なうちに早期退職を実施したり、優秀な新卒社員に対して高額の年収を提示するなど、従来の枠組みを超えた対応を行う企業が増えている。終身雇用や年功序列を基本としたいわゆる日本型雇用は、本格的に解体に向けて動きだした可能性が高い。

トヨタはこれまでもITの強化などを目的に中途採用を積極的に行ってきたが、総合職の採用に占める中途の比率を5割まで引き上げる方針を固めた。ホンダや日産など競合他社も中途採用枠を拡大しており、この動きは各社に広がっている。

企業の人員整理にも新しい動きが見られる。中高年社員を対象に早期退職を募集するのは珍しい光景ではなくなったが、これまでリストラを実施するのは業績が悪化した企業というのが定番だった。ところがキリンホールディングスは2018年度に過去最高益を達成するなど、順調な業績であるにもかかわらず大規模な早期退職に踏み切っている。

社員の処遇にも変化が出てきた。日本企業の多くは年功序列をかたくなに守ってきたが、NTTデータが最高3000万円の高額報酬制度を創設したり、NECが新卒社員に1000万円以上の年収を支払えるよう制度を改正するなど、能力の高い社員を処遇できる仕組みを取り入れる企業が増えている。

一連の動きは全て水面下でつながっているとみたほうがよい。日本の雇用制度は、新卒一括採用、年功序列、終身雇用がセットになっており、1つでも欠けるとうまく回らなくなる。各社が雇用制度の見直しに手を付け始めたということは、最終的には日本型雇用制度そのものの解体につながっていく可能性が高い。

日本型雇用制度はポストを増やせる成長期でなければ維持が難しい、というのは社会の共通認識だったはずだが、バブル崩壊後も日本企業は同様の人事戦略を続けてきた。その結果、日本企業は過剰な雇用を抱え、人手不足と余剰人員が同時に発生するという奇妙な状況に陥っている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ、停戦後に「ロシアと協議の用意」 ロは譲

ビジネス

VWが中国向け5車種の新モデル披露、シェア回復狙う

ビジネス

金価格、26年第2四半期までに1オンス4000ドル

ビジネス

ベーカー・ヒューズ、関税で通期実質利益に最大2億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負かした」の真意
  • 4
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「…
  • 5
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 6
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 7
    日本の人口減少「衝撃の実態」...データは何を語る?
  • 8
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 9
    なぜ世界中の人が「日本アニメ」にハマるのか?...鬼…
  • 10
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 6
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 7
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story