コラム

「批判してばかりでは経済は良くならない」という話が大嘘であるこれだけの理由

2019年09月25日(水)14時50分

女性の就業率は上昇しM字カーブは解消されたが、お世辞にも日本の子育て環境は充実しているとは言い難い(写真はイメージ) recep-bg-iStock

<人手不足、貧困、女性の社会進出......「もう少し早い段階で手を打っていれば違った」と思う人は少なくないはずだ。しかし面白いことに、こうした主張をすると「過去を批判するだけではダメだ!」「対案を出せ」といったお決まりの反論がやってくる。いやいや、対案など議論するまでもなく、すでに全部、出揃っているではないか>

日本経済が袋小路に入り込み、先が見通せない状況となっていることは、多くの人にとって共通認識となっている。一部の論者は「日本経済は力強く成長している」と主張しているが、賃金が増えず、物価だけがジワジワと上がる状況では、大半の国民が豊かさを感じられないのも当然だろう。

日本人はあらかじめ答が一意的に決まっている受験勉強型の思考回路に慣れきっており、状況を一発で解決できる(と期待させてくれる)安易で分かりやすい手法を求めがちである。だが現実社会は複雑で混沌としており、一つの方策で問題を解決できるようなものではない。

【参考記事】日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう
【参考記事】「日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう」への反響を受け、もう一つカラクリを解き明かす

日本はどの政権でも経済成長できていない

アベノミクス以降、民主党政権時代の失策によって日本経済がダメになったという認識が標準的になっている。そうだからこそ、アベノミクスには大きな期待が集まり、日本経済を復活させるには「これしかない」といった言い回しが多用された。

だが筆者に言わせれば民主党時代もアベノミクスも大した違いはない。民主党政権が経済政策についてほぼ無策だったのは事実だが、だからといってアベノミクスで日本経済が復活したわけでもないからだ。無策だった民主党時代においても、政策を総動員したアベノミクスにおいても、十分な経済成長を実現できなかったという現実を考えると、経済政策の違いは日本の成長にあまり寄与していないと考えるのが合理的だろう。

この話は、数字にもしっかり表われている。

アベノミクスと民主党政権時代、そして小泉政権時代を比較すると、アベノミクスにおける年平均の実質GDP(国内総生産)成長率は1.2%で2番目に高いが(四半期ベースのGDPを元に年率換算)、もっとも経済が成長したのは意外にも民主党政権で1.6%だった。小泉政権はアベノミクスより少し悪く1.0%である。ただ、民主党時代にはリーマンショック後の反動によるGDPの大幅増というボーナスがあったことを考えると、結局のところ、どの政権も似たり寄ったりである。

民主党時代に目立った経済政策は行われず、小泉政権では規制緩和が行われ、アベノミクスでは量的緩和策が行われたが、成長率に大きな違いは見られなかった。ちなみに巨額の公共事業という財政政策が行われた橋本政権・小渕政権の平均成長率もほぼ1.0%なのでやはり大きな違いはない。

各政権が行った経済政策はまったくの別ものであり、経済学的には対極ですらあるが、この結果を見ても分かるように、過去20年において経済政策の違いはほとんど成長率に影響を与えていないのだ。これは経済政策以前の話であり、日本経済には、もっと深刻で根本的な問題が横たわっていると認識すべきだろう。

日本では何十年も前から同じテーマが議論され続けている

では日本経済に横たわる根本的な問題とは何だろうか。それこそ学校のテストのように簡単に解ける話ではないのだが、雇用、労働環境、教育、グローバル化、ネガティブな社会風潮など、昨今、日常的に議論されているテーマはすべて該当すると考えることもできる。

それぞれの局面で課題とされていることを一つずつ、そして着実に解決していけば、その分だけ状況が改善する可能性は高く、逆に言えば、こうした個別の問題をおざなりにしてきたことこそが、マクロ的な成長を阻害している。

【参考記事】本気で考える、日本の労働生産性はなぜ万年ビリなのか?

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

USAレアアース株、一時26%上昇 米政府の16億

ワールド

イスラエル軍、ガザ最後の人質の遺体を収容

ワールド

トランプ氏、ミネソタ州に国境責任者派遣 地裁は摘発

ビジネス

金価格、5100ドルの大台突破 地政学リスクで安全
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 5
    「外国人価格」で日本社会が失うもの──インバウンド…
  • 6
    「20代は5.6万円のオートロック、今は木造3.95万円」…
  • 7
    中国、軍高官2人を重大な規律違反などで調査...人民…
  • 8
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 9
    私たちの体は「食べたもの」でできている...誰もが必…
  • 10
    外国人が増えて治安は悪化したのか
  • 1
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 10
    麻薬中毒が「アメリカ文化」...グリーンランド人が投…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 7
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story