コラム

「定価」が消える? リアル店舗もいよいよ価格が変動する時代へ...

2019年06月04日(火)13時55分

需給に応じて店頭価格を随時変更することが可能に(写真はイメージ) winhorse-iStock

<小売店にとってはメリットの多いリアルタイム価格の表示も、日系家電メーカーにとっては分かれ道。これをチャンスと捉えて、悪循環の続く昭和型の製品戦略を根本的に見直すタイミングだ。>

家電量販店のビックカメラが、店頭価格をリアルタイムで変動させる「ダイナミック・プライシング」のシステムを導入すると報道されている。アマゾンなどネット通販の世界では、需給状況に合わせて価格を随時変動させるのは当たり前となっているが、リアル店舗にもこの流れが及んできた。

こうした中、時代にもっとも追いついていないのが日本の家電メーカーである。実勢価格より高い定価で販売するという従来の売り方から脱却しないと、国内市場ですら守り切れなくなる可能性がある。

紙の値札を交換する作業には手間がかかる

これまでも家電量販店は、需給動向や他店の価格などをもとに、随時、店頭価格を変えてきた。「他店より1円でも高かった場合には、値引きします」と謳う店舗もあったが、リアル店舗において値札を変更する作業というのは、かなりの負荷がかかる。

紙の値札の場合、店員が都度、紙を貼り替える必要があるが、価格変動の頻度が高すぎると、値札の張り替え作業の比率が高まり、肝心の接客業務がおろそかになってしまう。量販店の方針にもよるが、店員による接客を重視する店舗にとっては、本末転倒な結果となる。

ビックカメラでは、この問題を電子ペーパーを使った新しいシステムで解決しようとしている。

複数色を表示できる電子ペーパーを値札として利用し、システム経由で随時、価格を変更できるようにする。店員は値札の張り替え作業をしなくてもよいので、接客に集中できる。

リアルタイム価格を導入できると、小売店にとっては、①売上高の最大化、②在庫の最適化という効果が得られる。

店舗での動きがよい商品は多少価格を上げても、販売が落ちることはない。よく売れている商品は、価格を上げることで売上高と利益を最大化できるだろう。

最近はリアル店舗で商品を確認し、ネット通販で買ってしまう客も多い。店舗の中でスマホを使って価格を調べる人もいるので、ネット通販との価格差は大きなマイナス要因だ。ネット通販サイトをシステムが巡回し、価格差が生じないよう調整することで、機会損失を回避する。

【参考記事】アマゾン、スーパーマーケットのリアル店舗出店へ 食品小売事業を強化

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ボーイング幹部、エア・インディア本社訪問 墜落事故

ビジネス

ソフトバンクG、Tモバイル株売却で48億ドル調達=

ワールド

ロシア、ウクライナ首都にドローン・ミサイル攻撃 1

ワールド

インド、年末までにEUと貿易協定締結の見通し=モデ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:コメ高騰の真犯人
特集:コメ高騰の真犯人
2025年6月24日号(6/17発売)

なぜ米価は突然上がり、これからどうなるのか? コメ高騰の原因と「犯人」を探る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 2
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 3
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染みだが、彼らは代わりにどの絵文字を使っている?
  • 4
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 7
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 8
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 9
    「そっと触れただけなのに...」客席乗務員から「辱め…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロットが指摘する、墜落したインド航空機の問題点
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 7
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 8
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 9
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 10
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 10
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story